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3月9日  【A3】

第29章 御衣黄


 感動したやら何やら。

 「万里くん…」
 「こんなに夢中になるなんてな、振り向かせたくてもそんな簡単じゃなくて、必死でさ。
 ダセェけど、悪くねぇじゃんって。そう言う意味では、咲也もそうだろ?」
 「私、過去1感動してるかもしれない」
 「だろ?…監督ちゃんには及ばねぇけど、出会えたのは芽李さんのおかげでもあるから」
 「何それちょっと抱きしめたい」
 「俺は構わなねぇけど?」
 「私が構う。はぁ、今の録音していづみちゃんに聞かせてあげたかった。あと左京さんに」
 「おっさんにはやめろ」
 「…わたしさ」

 足を止めると、振り向いた万里くん。

 「本当はちょっと怖かったの。万里くんにだから、情けないこと言うけど」
 「何が」
 「ああやって逃げたから。左京さんに、拒まれるのが怖かった。
 万里くんに言うの、デリカシーないかもしれないけど。万里くんがお芝居に向き合うって決めたあの日、左京さんとのやりとり話には聞いてたから、怖かった。
 私、MANKAIカンパニーのみんなのお芝居がすごく好きだよ。キラキラしてて、何でもなれそうで。わくわくする。
 絶対、何がなんでも手放したくなくて、みんなのこと陰ながら応援してた」

 万里くんの目が私を捉える。

 「私だけが一方的に応援してればいいって、片想いでもいいって。
 怖かったから、正面になんてとてもいけない。みんなの顔みられないって、だからみんなの背中ずっと追いかけてた。
 振り向いてもらわなくていいって、先をいくみんなの背中を見てた」
 「芽李さん」
 「今も、そう思ってる。…みんなが暖かく迎えてくれても、私はどこかで寂しい。なんでかなって思ってたけど、万里くんと話してたら、ようやく答えが出た」

 万里くんが笑った顔が少し切なく見えたのは、私の心情のせいか、それとも本当にそうだったのかはわからない。

 「またお手伝いしたいって言ったら、左京さん怒るかな」
 「タダ働きでも良ければな」
 「左京さん…」
 「おっさん。何ついてきてんだよ、ストーカー?」
 「摂津、後で覚えてろよ。仕事で来たらお前たちの姿が見えてな」
 「えっと、どこから?」
 「ベタなことを言うと、摂津がお前に"愛されてんじゃん、咲也に"って言ったところからだな」
 「割と序盤。…っとにベタだな。真似してんじゃねぇよ」
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