第29章 御衣黄
感動したやら何やら。
「万里くん…」
「こんなに夢中になるなんてな、振り向かせたくてもそんな簡単じゃなくて、必死でさ。
ダセェけど、悪くねぇじゃんって。そう言う意味では、咲也もそうだろ?」
「私、過去1感動してるかもしれない」
「だろ?…監督ちゃんには及ばねぇけど、出会えたのは芽李さんのおかげでもあるから」
「何それちょっと抱きしめたい」
「俺は構わなねぇけど?」
「私が構う。はぁ、今の録音していづみちゃんに聞かせてあげたかった。あと左京さんに」
「おっさんにはやめろ」
「…わたしさ」
足を止めると、振り向いた万里くん。
「本当はちょっと怖かったの。万里くんにだから、情けないこと言うけど」
「何が」
「ああやって逃げたから。左京さんに、拒まれるのが怖かった。
万里くんに言うの、デリカシーないかもしれないけど。万里くんがお芝居に向き合うって決めたあの日、左京さんとのやりとり話には聞いてたから、怖かった。
私、MANKAIカンパニーのみんなのお芝居がすごく好きだよ。キラキラしてて、何でもなれそうで。わくわくする。
絶対、何がなんでも手放したくなくて、みんなのこと陰ながら応援してた」
万里くんの目が私を捉える。
「私だけが一方的に応援してればいいって、片想いでもいいって。
怖かったから、正面になんてとてもいけない。みんなの顔みられないって、だからみんなの背中ずっと追いかけてた。
振り向いてもらわなくていいって、先をいくみんなの背中を見てた」
「芽李さん」
「今も、そう思ってる。…みんなが暖かく迎えてくれても、私はどこかで寂しい。なんでかなって思ってたけど、万里くんと話してたら、ようやく答えが出た」
万里くんが笑った顔が少し切なく見えたのは、私の心情のせいか、それとも本当にそうだったのかはわからない。
「またお手伝いしたいって言ったら、左京さん怒るかな」
「タダ働きでも良ければな」
「左京さん…」
「おっさん。何ついてきてんだよ、ストーカー?」
「摂津、後で覚えてろよ。仕事で来たらお前たちの姿が見えてな」
「えっと、どこから?」
「ベタなことを言うと、摂津がお前に"愛されてんじゃん、咲也に"って言ったところからだな」
「割と序盤。…っとにベタだな。真似してんじゃねぇよ」