第29章 御衣黄
「愛されてんじゃん、咲也に」
「結構なこと言われてたけど、ほんとに愛あった?」
「自分が1番わかってんだろ、照れてっからってそんなこと言ってたらよくねぇよ。俺らも行くか」
「え、何この手」
「エスコートしてやろうかなって。咲也にも頼まれたし」
左手を差し出して来た万里くんに、そんな仕草が似合うなんてさすがだねといえば茶化すなと怒られた。
「ねぇ、万里くん」
「なんだよ」
手を取らず隣にいけば、万里くんはそれをポケットへとしまった。
「ありがとね」
「なんの話?」
「…ずっと、助けてもらってたなって」
「だから、なんの話?」
「万里くんはいい相談相手で、咲の次にいい弟だなって」
「ふーん、なるほど」
「なるほど?」
「そんな予防線はらなくたって、取って食ったりしねぇよ。俺がデートって言ったり、手繋ごうとしたりするからビビったんだろ」
「違う、とも言い切れない」
「流されやすいから、アンタは。俺には靡いてくれないけど」
「万里くんは、いい男の子だと思うよ」
「"子"だもんな。脈すらねぇじゃん。んまぁ、弟役も役得だけどさ」
歩き出した万里くんの後を追う。
「心配しなくても、大丈夫だぜ?俺もう新しい"コイビト"いるしな」
「え!そうなの?!どんな子?!」
「すげぇ食いつき。んー、咲也と一緒?」
「え?修羅場じゃん。ごめんだけど、私万里くんと咲なら、咲応援しちゃうよ?!」
「なんだよ、それ。ありえねぇ」
「でも、咲とか万里くんに愛される女の子ってどんな子なんだろう?」
「女じゃねぇよ」
「え、そっち?!」
「そっちってどっちだよ」
「…まって、…わかっちゃった」
「何がだよ?」
「十」
「ばっか!!兵頭じゃねぇ!考えただけで気持ち悪りぃ」
うぇっと、吐く仕草をしながらこちらを睨む。
「なんかそこまであからさまだと、逆に本当かなって」
「アンタの目は節穴か?芽李さんってば、ありえねぇ。そうしたら、咲也もそう言うことになるけど」
「十座くんって不器用な優しさあふれてて、男らしくてかっこいいもんね、惚れても仕方ないと思うけど、…うん。咲が決めたことなら、応援しちゃう」
「馬鹿、誤解だ」
「なんだ誤解か。で、どんな子?」
「どんな子ってか、芝居。今は、それが"コイビト"」