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3月9日  【A3】

第29章 御衣黄


 「芽李さん?」

 万里くんに呼びかけられて、視界に2人の背中だけだったことに気づく。

 「あ、うん。ごめんなんの話?」
 「そろそろオレの職場に着くよって、話してたんだけど…姉ちゃん、疲れちゃった?」

 咲のまんまるの瞳が揺れる。

 「ううん、全然。咲も万里くんも背中、逞しくなったなぁって眺めてただけ」
 「なんだよそれ」
 「ふふっ、まぁね。姉ちゃん1人くらいなら、オレにだって護れるよ」
 「最近丞さんと鍛えてるもんな」
 「うん!」
 「え、咲、丞さんみたくムキムキになるの?」
 「…んー、姉ちゃんがこれからも1人で突っ走ろうとするなら、頼ってもらえるまでは鍛えようかな」
 「やだやだ。咲、可愛いままでいてぇ」
 「どうしよっかな」
 「頼る頼る!絶対頼る!」
 「咲也、言質撮った」
 「さすが万里くん」
 「それにしたって、1人で突っ走って、なんて酷いなぁ。そんなことある?」
 「無自覚かよ」

 呆れたように笑う2人に、私は少しだけ温度差を感じてた。
 だから、寂しいのが消えないのかなって。
 1人で突っ走ってきたから?

 「こーら、姉ちゃん下向かないの。昨日から思ってたけど、俯くこと多くなったね」
 「たしかにな。なに、また至さんみたいにオタ発動してんの?」
 「発動するもなにも、その前にオレは姉ちゃんの弟なんだから」

 グッと肩を掴まれる。

 「咲」

 ニコッと笑った咲。

 「やっと目があった。姉ちゃん、オレの職場あそこなんだ。と言っても、バイトで」
 「保育園?」
 「そうだよ」
 「咲、先生なんだ」
 「うん!」
 「いいね、似合う。咲は優しいし可愛いし、一生懸命だし、私の自慢だから、きっと大人気なんだろうね」

 ぽふっと耳まで真っ赤に染まった咲。

 「見て、私の弟がかわいい。大優勝」

 万里くんが、咲也困らせんなよと笑う。

 「姉ちゃんには敵わないや。…万里くん、姉ちゃんのことお願いします。頑固だし、いじっぱりだし、どうしようもない人だけど」
 「待って凄い言われよう。落ち込む」
 「でも、とっても大切な姉ちゃんだから。面倒くさいかもしれないけど、今日はよろしくね」
 「おう、まかせろ」
 「じゃあ、行ってきます。姉ちゃん、また連絡するね」
 「行ってらっしゃい、咲」

 青になった信号を渡って咲が駆けてく。
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