• テキストサイズ

3月9日  【A3】

第29章 御衣黄


 「全く、朝に出かけるなら書き置きとか、メールとかしろよな」
 「それは、ごめん。え、もしかしてみんなそれで?」
 「ま、それもあるな」
 「うわっ、本当にごめんなさい。みんなも…」
 「まぁ、無事でよかったよ。密くんも」
 「お詫びと言ったらなんだけど、パン買ってきたからみんなでどうぞ」

 至さんが持ってくれていた袋を指さすと、ロゴを見た学生組がパッと顔を明るくさせる。

 「あ!!ここのパン屋朝早くに売り切れちゃうっていう、SNSで話題のパン屋じゃん」
 「相変わらずの量だな」
 「朝食べきれないなら、オヤツにでもして」
 「さんかくピザもある!!さんかくさんかく〜」
 「三角、それ俺の。多分、絶対俺の。三角はこっちのサンドイッチたべなよ」
 「いたる、大人げない〜」
 「えー、俺っちもピザ食べたいッス!」

 わちゃわちゃし始めたみんなを遠目に見る。

 私が好きだった景色。
 まさかまたここに来られるとは思わなかったけど。

 「姉ちゃん」
 「咲、おはよう」
 「おはよう」
 「寝癖ついてる、直してあげるから少ししゃがんで?」
 「い、いいよ!あとで自分でするし」
 「遠慮しなくていいのに」
 「遠慮じゃないよ、いつまでも子供じゃないの。オレだって」
 「可愛い」
 「もう、すぐ可愛いって言う」
 「反抗期??可愛い〜」
 「反抗期って。姉ちゃんはずっとそうでしょ、オレに対して」
 「え、そんなことないでしょ」
 「そんなことあるよ。…って、そうじゃなくて。姉ちゃん今日の予定は?」
 「おうちに帰るよ、それ以外はまだ決めてない」
 「そっか。なら、送っていくよ」
 「咲の予定は?」
 「オレ、今日お仕事もお休みだから、何しようかなって思ってたところ」
 「じゃあ、お言葉に甘えよっかな。咲もパン選んでおいで、無くなっちゃうよ」
 「うん!」

 咲と入れ替わりで私の隣に座った至さんの手には、ピザ。
 大人気なく、争奪戦に勝ったみたいだ。

 「ふふっ」
 「なに?」
 「いや、至さんらしいなって」
 「前髪のこと?」
 「前髪?」
 「昨日、泣いてたじゃん。俺が他所行きの格好してるって」
 「覚えてない」
 「えー。…俺はね、なんだろ。幻滅してほしくなくて、お洒落したつもりだったんだよな。いうほどお洒落でもなかったけど」
 「どう言うこと?」
/ 528ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp