第29章 御衣黄
「思うかもしれない」
「どう言うこと?」
「んー、ほら。昨日言ってたでしょ、劇団員増やすって」
「うん」
「だから、宣伝?みたいな。ふふ、策略家でしょ」
「オレに宣伝?」
「そう、もし来たらさ、密さんは味方してあげてね」
「その人が絶対来るって、言えるの?」
「ううん、ただ私があの場所にいて欲しいって思うだけ。私に優しくしてくれたひとだから、優しさに包まれる場所で穏やかに笑って過ごしてくれたらいいのにって。
演技も上手いの、絶対MANKAIカンパニーに似合う人だと思うの」
「監督にいいなよ」
「それは違うよ、絶対じゃないから。世間話程度、私の夢話でいいの。
でも、どうせ打つお芝居なら悲しい演技じゃなくて、楽しい舞台の方が良くない?
もちろん、カンパニーのみんなを見てきたうえで、全くの苦労がないわけじゃないって、わかるよ。
でも、同じ苦労なら、その先に待つのがより楽しいものなら、そっちの方が素敵だと思わない?」
ねぇ、千景さん。
どう思う?
私、千景さんのこと多分半分も知らない。
千景さんは隠すのも上手いから、でもね、ただそばに居ただけじゃないよ。
その笑顔の下に何があるんだろうって、たまにする悲しい視線の奥に気付かなかったわけじゃないよ。
「ふっ、」
フワッと風が密さんの髪を持ち上げた時、横目に隠していた瞳が見えた。
色違いの、不思議な目。
「やっぱり、芽李はオレたちが必要だよ」
「堂々巡りじゃん、だからね」
「うん、だからだよ。諦めたほうがいい、その人のことと、オレ達のことでいっぱいいっぱいのくせに」
「…」
「監督みたい。演劇バカ。…ううん、カンパニーバカ」
「なんかやだな、それ」
「嬉しいって書いてある。オレたちやその人が心配なら、見える場所で見守ってて。どうせなら」
「…困っちゃうな」
「ゆきが、言ってた。太一だけじゃ手が足りない、猫の手も借りたいニャーって」
「ふっ、」
「臣もアシスタント欲しいって、一成も新しいアイデアいっぱい欲しいって、綴も」
「ふふ、」
「至も、ガチャドブばっかで困るって」
「それは自業自得っていうか」
「芽李がいるスペースはどこにでもあるよ、ないなら、オレのとこ来て。膝枕要員」
「東さんじゃなくていいの?」
「……」