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3月9日  【A3】

第29章 御衣黄


 「おかえり!芽李ちゃん!!」

 談話室に入ってすぐ、満開の笑顔で迎え入れてくれたいづみちゃんに、やっぱり涙は止まらなくなった。

 どうしてかな。

 私、千景さんといた日々も胸がいっぱいで、温かくなるようなことだって沢山あったのに。

 沢山優しくしてもらったのに。

 「ただいま、いづみちゃん」

 みんなが温かく迎えてくれる分、痛みが増す。
 千景さんを思い出してしまう。

 ぎゅーっと抱きしめられて、こんな時だからか、真澄くんは怒りもしない。
 だからここぞとばかりに抱きしめ返す。

 「ごめんね」
 「謝るの禁止。幸せになったんでしょう?」
 「…うん」
 「じゃあ許す、…でも。結婚式呼んでくれなかったのは許さない」
 「ごめん」
 「ウエディングドレス見たかった」
 「ごめん」
 「いつか見せてね」
 「…やだ」
 「え」
 「似合わないから、衣装に着られちゃう。いづみちゃんのはみたい」
 「えー、ずるい」

 ーぐいっ

 せっかく2人の世界だったのに、離されたことに不満を言いそうになると、ものすごい形相の真澄くんがそこに居たので、以下略。

 「監督のウエディングドレス見ていいのは俺だけ」
 「おーらおら、監督も真澄も、芽李さんも、そろそろ乾杯にしないか?」

 所狭しと並んだ料理と、グラスを持つみんな。

 臣くんにぐいっと差し出されたグラス。

 「ありがとう、」

 いつの間にか部屋から戻ってきていた至さんもいて、いつものようなオフモードじゃなく、どこかよそゆきの身綺麗な格好をしていたのを横目で見て。

 少し寂しくなった。

 乾杯の合図は左京さんのはずだったのに、気づいたら説教になって、遮るように万里くんがしていた。

 私のところにもかわるがわるみんながきてくれて、あっという間に時間がすぎてゆく。

 「芽李さん、顔赤くねぇ?」
 「んー?」

 学生組はほとんどが部屋に戻った頃、お風呂から上がった万里くんは何食わぬ顔で私が座るソファーの横を陣取る。

 「んー、んふ」
 「ご機嫌かよ」
 「ふふふ、ふふ」
 「おやおや」

 東さんの声が遠くに聞こえる。
 私はふわふわして、酔っていることを少しだけ認識している。

 思考がきちんと働かない分、どうしようもないことが浮かんでしまうのは、酔いが回ったせい。
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