第29章 御衣黄
「おかえり!芽李ちゃん!!」
談話室に入ってすぐ、満開の笑顔で迎え入れてくれたいづみちゃんに、やっぱり涙は止まらなくなった。
どうしてかな。
私、千景さんといた日々も胸がいっぱいで、温かくなるようなことだって沢山あったのに。
沢山優しくしてもらったのに。
「ただいま、いづみちゃん」
みんなが温かく迎えてくれる分、痛みが増す。
千景さんを思い出してしまう。
ぎゅーっと抱きしめられて、こんな時だからか、真澄くんは怒りもしない。
だからここぞとばかりに抱きしめ返す。
「ごめんね」
「謝るの禁止。幸せになったんでしょう?」
「…うん」
「じゃあ許す、…でも。結婚式呼んでくれなかったのは許さない」
「ごめん」
「ウエディングドレス見たかった」
「ごめん」
「いつか見せてね」
「…やだ」
「え」
「似合わないから、衣装に着られちゃう。いづみちゃんのはみたい」
「えー、ずるい」
ーぐいっ
せっかく2人の世界だったのに、離されたことに不満を言いそうになると、ものすごい形相の真澄くんがそこに居たので、以下略。
「監督のウエディングドレス見ていいのは俺だけ」
「おーらおら、監督も真澄も、芽李さんも、そろそろ乾杯にしないか?」
所狭しと並んだ料理と、グラスを持つみんな。
臣くんにぐいっと差し出されたグラス。
「ありがとう、」
いつの間にか部屋から戻ってきていた至さんもいて、いつものようなオフモードじゃなく、どこかよそゆきの身綺麗な格好をしていたのを横目で見て。
少し寂しくなった。
乾杯の合図は左京さんのはずだったのに、気づいたら説教になって、遮るように万里くんがしていた。
私のところにもかわるがわるみんながきてくれて、あっという間に時間がすぎてゆく。
「芽李さん、顔赤くねぇ?」
「んー?」
学生組はほとんどが部屋に戻った頃、お風呂から上がった万里くんは何食わぬ顔で私が座るソファーの横を陣取る。
「んー、んふ」
「ご機嫌かよ」
「ふふふ、ふふ」
「おやおや」
東さんの声が遠くに聞こえる。
私はふわふわして、酔っていることを少しだけ認識している。
思考がきちんと働かない分、どうしようもないことが浮かんでしまうのは、酔いが回ったせい。