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3月9日  【A3】

第29章 御衣黄


 「ごめん」

 謝ると呆れるような、それでも温かい眼差しでこちらを見るから、思わずグッと来た。

 勝手な私と優しい夏組のみんな。

 夏組だけじゃない、玄関に足を踏み入れただけなのに、そこに招かれただけで、こんなに懐かしくて、あったかくて、満たされて、わがままな私は少し思ってしまった。
 ここに千景さんがいたらな…って。
 やっぱり、あんなに2人で過ごしたから、あの日々には私の中に千景さんがいたから、情がうつらない訳ないのに。

 「あの、お久しぶりです。これ…みんなに」
 「わぁ!!って、多くね?!」
 「食べ物から雑貨まで。お店できそうだね。とりあえず入りなよ」

 通り抜けてった至さんはもう居なくて。

 こういうこと気にしてるから、千景さんが居なくなっちゃったのかな、なんて思った。

 「とりあえず、上がれよ。監督がカレー作ってる」
 「カレー星人がカレー作るのはいつものことでしょ。
 オカンも腕によりをかけてたよ」
 「僕もお手伝いしました!」
 「…そっか。楽しみだな。お邪魔します」

 靴を脱ごうとすると、三角くんに止められる。

 「ぶっぶー!違います。めい、お邪魔しますじゃないよ」
 「え?」
 「そうだね」
 「幸くんまで」
 「オレたち、あの日がさよならって思ってないよ。行ってらっしゃいって送り出したんだから」

 これが夢だとしたら、なんて都合のいい夢だろう。

 「お前らいつまで玄関で騒いでる。ご近所さんに迷惑だろうが」

 痺れを切らしたであろう、左京さんがやってくる。
 全然変わってない。
 優しくて、厳しい眼差し。

 「芽李…ったく。おかえり、早く入れよ。お前らも通してやれ」
 「えぇー」
 「えー、じゃねぇ!」

 左京さんに、おかえりって言われたら、もう無理だ。
 私は勝手にここを出たのに。

 「あ!ふるーちぇさんがメイメイを泣かせた〜!」
 「はぁ??」
 「っていうか、芽李さんも言うことあるんじゃないの?」

 幸くんに促されて、やっと言葉にする。
 本当は、許されないと思ってた言葉。

 「ただいま」
 「上出来。おかえり、芽李さん」

 ニッコリとファンサまでもらって、幸くんに片腕を組まれる。
 もう片方には椋くん。
 これは流石に、両手に華がすぎるくない?
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