第29章 御衣黄
「ごめん」
謝ると呆れるような、それでも温かい眼差しでこちらを見るから、思わずグッと来た。
勝手な私と優しい夏組のみんな。
夏組だけじゃない、玄関に足を踏み入れただけなのに、そこに招かれただけで、こんなに懐かしくて、あったかくて、満たされて、わがままな私は少し思ってしまった。
ここに千景さんがいたらな…って。
やっぱり、あんなに2人で過ごしたから、あの日々には私の中に千景さんがいたから、情がうつらない訳ないのに。
「あの、お久しぶりです。これ…みんなに」
「わぁ!!って、多くね?!」
「食べ物から雑貨まで。お店できそうだね。とりあえず入りなよ」
通り抜けてった至さんはもう居なくて。
こういうこと気にしてるから、千景さんが居なくなっちゃったのかな、なんて思った。
「とりあえず、上がれよ。監督がカレー作ってる」
「カレー星人がカレー作るのはいつものことでしょ。
オカンも腕によりをかけてたよ」
「僕もお手伝いしました!」
「…そっか。楽しみだな。お邪魔します」
靴を脱ごうとすると、三角くんに止められる。
「ぶっぶー!違います。めい、お邪魔しますじゃないよ」
「え?」
「そうだね」
「幸くんまで」
「オレたち、あの日がさよならって思ってないよ。行ってらっしゃいって送り出したんだから」
これが夢だとしたら、なんて都合のいい夢だろう。
「お前らいつまで玄関で騒いでる。ご近所さんに迷惑だろうが」
痺れを切らしたであろう、左京さんがやってくる。
全然変わってない。
優しくて、厳しい眼差し。
「芽李…ったく。おかえり、早く入れよ。お前らも通してやれ」
「えぇー」
「えー、じゃねぇ!」
左京さんに、おかえりって言われたら、もう無理だ。
私は勝手にここを出たのに。
「あ!ふるーちぇさんがメイメイを泣かせた〜!」
「はぁ??」
「っていうか、芽李さんも言うことあるんじゃないの?」
幸くんに促されて、やっと言葉にする。
本当は、許されないと思ってた言葉。
「ただいま」
「上出来。おかえり、芽李さん」
ニッコリとファンサまでもらって、幸くんに片腕を組まれる。
もう片方には椋くん。
これは流石に、両手に華がすぎるくない?