第29章 御衣黄
「八つ当たりじゃないです」
「ぐじぐじ考えるやつが、俺をこのカンパニーに誘うか?」
「…それは」
「あのなぁ、何を気にしてるのか俺には半分も分からないけどな、お前が考えてるより悪くはならないと思うぞ。
少なくとも、俺はどうでもいい奴を迎えに行かない」
「咲也を迎えに来たんでしょう」
「それならお前を乗せない。佐久間だけ乗せて帰る」
「丞さんはそんな状況でも私を乗せないことないですよね」
「そう言う状況にならないとわからないな。って、なんだこの不毛な会話は。
とにかく、お前きっかけでこのカンパニーに入った奴も少なからずいること忘れるなよ。そして、その後を見届ける責任がお前にあることもな。ほら、行くぞ」
ぐいっと腕を引かれて、思いの外すんなりと体が言うことを聞く。
「丞さん」
「なんだまだあるのか」
「いや、なんと言うかありがとうございます」
「…お土産なんだろ、そっちはお前が持てよ。こっちは俺が持ってやるから」
ピピッと車の鍵を閉めた丞さんは、私の荷物よりすこし多く荷物を持ってくれて、寮の玄関までの道を先に行く。
その背中が頼もしい。
何かあったら隠れさせて頂こうと、こんな時まで弱虫発動だ。
「じゃあ、開けるぞ」
パンパンっぱんっ!
丞さんが開けたのと同時に、鳴り響いた弾けるような音。
「メイメイ」
「「「「「お帰り〜!!」」」」」
「…って、丞じゃん」
「タクスかぁ〜」
なんて夏組の声が聞こえる。
そして、後ろから声がかかる前に鼻を掠めたのは、私の知ってる匂いだ。
覚えてるんだな、意外と。
「なんの騒ぎ、これ」
「いたるんもおかえり〜、聞いてよー。タクスがさぁ、往生際の悪いメイメイを説得してるっていうから、玄関開けた時びっくりさせようってサプライズだったのにさぁ」
「芽李、丞の後ろにいるけど」
しれっと私の名前を呼んで、しれっと横を通り抜けた至さん。
横目に目があった気がしたのに。
「え!ぜんぜん気づかなかった!声かけてよ、メイメイ〜」
「ほんとだ、隠れてたの。ありえないんだけど」
「芽李さんっ」
「めい、約束の三角お土産は〜??」
「こら、三角。先に言うことあるだろ?
芽李さんも、まったく、何してんだよ」