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3月9日  【A3】

第29章 御衣黄


 「八つ当たりじゃないです」
 「ぐじぐじ考えるやつが、俺をこのカンパニーに誘うか?」
 「…それは」
 「あのなぁ、何を気にしてるのか俺には半分も分からないけどな、お前が考えてるより悪くはならないと思うぞ。
 少なくとも、俺はどうでもいい奴を迎えに行かない」
 「咲也を迎えに来たんでしょう」
 「それならお前を乗せない。佐久間だけ乗せて帰る」
 「丞さんはそんな状況でも私を乗せないことないですよね」
 「そう言う状況にならないとわからないな。って、なんだこの不毛な会話は。
 とにかく、お前きっかけでこのカンパニーに入った奴も少なからずいること忘れるなよ。そして、その後を見届ける責任がお前にあることもな。ほら、行くぞ」

 ぐいっと腕を引かれて、思いの外すんなりと体が言うことを聞く。

 「丞さん」
 「なんだまだあるのか」
 「いや、なんと言うかありがとうございます」
 「…お土産なんだろ、そっちはお前が持てよ。こっちは俺が持ってやるから」

 ピピッと車の鍵を閉めた丞さんは、私の荷物よりすこし多く荷物を持ってくれて、寮の玄関までの道を先に行く。
 その背中が頼もしい。
 何かあったら隠れさせて頂こうと、こんな時まで弱虫発動だ。

 「じゃあ、開けるぞ」

 パンパンっぱんっ!

 丞さんが開けたのと同時に、鳴り響いた弾けるような音。

 「メイメイ」
 「「「「「お帰り〜!!」」」」」
 「…って、丞じゃん」
 「タクスかぁ〜」

 なんて夏組の声が聞こえる。
 そして、後ろから声がかかる前に鼻を掠めたのは、私の知ってる匂いだ。

 覚えてるんだな、意外と。

 「なんの騒ぎ、これ」
 「いたるんもおかえり〜、聞いてよー。タクスがさぁ、往生際の悪いメイメイを説得してるっていうから、玄関開けた時びっくりさせようってサプライズだったのにさぁ」
 「芽李、丞の後ろにいるけど」

 しれっと私の名前を呼んで、しれっと横を通り抜けた至さん。

 横目に目があった気がしたのに。

 「え!ぜんぜん気づかなかった!声かけてよ、メイメイ〜」
 「ほんとだ、隠れてたの。ありえないんだけど」
 「芽李さんっ」
 「めい、約束の三角お土産は〜??」
 「こら、三角。先に言うことあるだろ?
 芽李さんも、まったく、何してんだよ」
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