第29章 御衣黄
「おい、着いたぞ」
「芽李さん?」
「あ、…はい」
「姉ちゃん?」
降りないといけないと思いつつ、なかなか腰を上げられずにいると、私が座っていた側のドアを紬さんが開けたのはついさっき。
紬さんと丞さん、咲との寮までのドライブは言うまでもなく楽しかったけれど、あんな形で寮を抜けたと言うのに、こんな形でまた寮にお邪魔するのは一体どうなんだろうと、怖気付いた私が顔を出した。
みんな真面目にお芝居をやって関係を作り上げて、その間私がやってたのはなんだ?
私の身内のことで1人では解決できずに、千景さんに甘えて、挙句愛想尽かされて、もう本当にみんなとは真逆だ。
「…緊張してしまって」
誤魔化すように、呟く。
「緊張、ですか?」
「はぁ?」
「緊張って」
わかる、分かってるって。三者三様の、呆れ具合なんて見なくても分かってる。
何怖気付いてんだよって、話で。
「だって、あの"MANKAIカンパニー"の役者さん総勢20名に一気に会うって考えたら、ただのオタクが発動しちゃって。
心臓バックバクになるじゃないですか」
苦し紛れというか、もう私が苦しい。
誤魔化しとかいいながら、この言い訳もどうなの?
でもなんかで見たんだもん、嘘に真実を混ぜると…みたいな話。
もはやこの言い訳、嘘もなく真実なんじゃないかっていうのも一理あるんだけど。
「コイツ、茅ヶ崎みたいなこと言ってるぞ」
「こら、丞」
「すみません、姉ちゃんが」
「その発作はどのくらいで治るんだ?」
「発作ってもっと言い方が」
「紬、佐久間、先戻ってろ」
「丞…わかったよ。行こう、咲也君。大丈夫、いくら丞でも取って食べたりしないから」
「…じゃあ、すみません。姉ちゃん、丞さんに迷惑かけちゃダメだからね」
2人の遠ざかる足音を聞いていたら、余計情けなくなってきた。
咲よ、ここに止まってる時点で私は丞氏にご迷惑おかけしているんじゃないだろうか。
分かってるなら早く行けって、それも分かってるんだってば。
それとこれとは別といいますか。
「…おい」
「はい」
「お前、そんなタイプだったか?」
「そんなタイプとは?」
「頭で考えるタイプ」
「考えますけど、一応。考えない人間なんているんですか」
「八つ当たりするなよ」