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3月9日  【A3】

第28章 関山


 「だから、ごめん。そうだ、咲」

 合鍵を引き出しから取り出して、その手に渡す。

 「ここの鍵」
 「いいの?」
 「うん。あー、…でも寮には住めないけど、お仕事あったら左京さんにお願いしようかな。
 まだこっちに来て日も浅いからお仕事ないんだよね。図々しいかな?」
 「ううん、オレも一緒に頼むよ!!だから、大丈夫」
 「ありがとう、じゃあ行こっか」
 「うん!あ…」
 「ん?」
 「万里くんが、早く来ないと迎え行くぞって」
 「ふはっ、じゃあ、なおさら早く帰らないと」
 「でも、この荷物なら来てもらった方がいいかもね。天鵞絨駅までお願いしようか」
 「申し訳ないけど、そうしよっか」
 「駅まで着いたら連絡してって、万里君が」
 「うん」

 2人で持っても、両手が塞がる。

 「すごい量だね」

 鍵を閉めるのも一苦労だった。

 この荷物の量で電車に乗るのは迷惑かなぁと思いながら、車内は案外空いていて、内心ほっとした。

 天鵞絨駅に着いて、咲が連絡をいれる。

 近くのベンチで座って待っていたところに、大きめの車が止まった。

 「丞さん!紬さんも」
 「咲也君、おまたせ。芽李さん、お久しぶりです」

 助手席から降りてきた紬さんと、運転席から降りてきた丞さんにすかさず頭をさげる。

 「お久しぶりです、咲がお世話になってます。今日も突然すみません」
 「…なんだ、案外普通だな」
 「丞」
 「合わせる顔ないって、言ってたんだろ」
 「ごめんね、咲也君、芽李さん。丞と俺、今日客演の日で、丞、役抜けきれてないんだ」
 「誰がデリカシーないって?」
 「言ってないでしょ、もう。荷物後ろに積んでいいよ。ほんとにごめんね、たぁちゃんが。
 って、本当にすごい量だね」
 「すみません、自分でも無意識に溜め込んでたみたいで」
 「紬さん、丞さん、ありがとうございます。客演でお疲れなのに、すみません」
 「いいのいいの。俺も丞も、芽李さんに早く会いたかったし。それに、寮のみんな待ってますよ。さっきからグループラインが大荒れです」
 「え?」
 「手荒い歓迎でも、我慢してくださいね。合わせる顔がないって思う間も無く、どんちゃん騒ぎになると思うので」

 ニコッて、セリフに似合わない笑顔を私に向ける。

 「さ、2人とも乗ってください」

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