第28章 関山
「旦那さん、だった人かな」
「え?」
「ごめん、咲。挨拶させてあげられないや」
ドアを開けて、招き入れる。
「何か飲む?あ、オレンジジュースあるよ」
「じゃあ、貰う。ありがとう、姉ちゃん」
「うん、その間お土産持ってくるから待ってて」
カップに一杯オレンジジュースを注いで、恋人の名前のつくお菓子をちょこっとだけだして、一度部屋に行く。
咲は借りてきた猫みたいに、ちょこんとお利口に座ってる。
たくさんの三角と、これまでのお土産を持てば、結構な量になる。
無意識にこんな集めてたなんて、それに加えて北海道出る時にも買い足したし、これは千景さんも嫌になっても仕方ないか。
「咲、お待たせ」
「ううん……え?」
ほら、咲だってどん引いてる。
「それ、全部?」
「あはは、多いよね」
「うん」
「持つの、手伝ってくれる?」
「もちろんいいけど、みんなにも着いてきてもらえばよかったかな」
「それは私も思った。自分でも驚いちゃったよ、こんなにたまってたんだって。
未練がましくて嫌になっちゃうね」
「ううん、嬉しいよ。姉ちゃんは合わす顔ないって言ったけど、オレ達だって思ってたよ。
携帯壊れたの知らなかったし、全然連絡こないのは、姉ちゃんがきっと幸せで、オレ達を…オレを忘れちゃったんじゃないかって。
それでもよかった、姉ちゃんが幸せならって、思ってたんだけどね」
「咲…」
「ごめん、これからいつでもまた会えるんだって、思って」
咲のまんまるで大きな瞳に涙が浮かんでく。
咲が座っていたソファーのとなりに、座ってぎゅっと肩を抱く。
「ううん、私の方がごめんね。ほんとうに、ごめん。
咲を忘れた日なんて、1日もないよ。大袈裟じゃなくて、咲が産まれてからずっと、一回も、離れてる時は特にずっと思ってたよ。
咲が舞台に立ち続けてくれてるのもずっと見てた。
チェシャ猫も、コルトも、かっこよかった。咲、凄いよ。ロミオの時は主役でかっこよくて、そうじゃなくてもみんなのことちゃんと支えて、さすが春組のリーダーだなって、私誇らしかったよ」
もっともっと伝えなきゃいけないことがあるのに、さっぱり出てこない。
これでもまだ足りない。
「姉ちゃん、」
「ん?」
「ちょっと苦しい」
「あ、ごめん」
慌てて腕を離す。