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3月9日  【A3】

第28章 関山


 「旦那さん、だった人かな」
 「え?」
 「ごめん、咲。挨拶させてあげられないや」

 ドアを開けて、招き入れる。

 「何か飲む?あ、オレンジジュースあるよ」
 「じゃあ、貰う。ありがとう、姉ちゃん」
 「うん、その間お土産持ってくるから待ってて」

 カップに一杯オレンジジュースを注いで、恋人の名前のつくお菓子をちょこっとだけだして、一度部屋に行く。

 咲は借りてきた猫みたいに、ちょこんとお利口に座ってる。

 たくさんの三角と、これまでのお土産を持てば、結構な量になる。
 無意識にこんな集めてたなんて、それに加えて北海道出る時にも買い足したし、これは千景さんも嫌になっても仕方ないか。

 「咲、お待たせ」
 「ううん……え?」

 ほら、咲だってどん引いてる。

 「それ、全部?」
 「あはは、多いよね」
 「うん」
 「持つの、手伝ってくれる?」
 「もちろんいいけど、みんなにも着いてきてもらえばよかったかな」
 「それは私も思った。自分でも驚いちゃったよ、こんなにたまってたんだって。
 未練がましくて嫌になっちゃうね」
 「ううん、嬉しいよ。姉ちゃんは合わす顔ないって言ったけど、オレ達だって思ってたよ。
 携帯壊れたの知らなかったし、全然連絡こないのは、姉ちゃんがきっと幸せで、オレ達を…オレを忘れちゃったんじゃないかって。
 それでもよかった、姉ちゃんが幸せならって、思ってたんだけどね」
 「咲…」
 「ごめん、これからいつでもまた会えるんだって、思って」

 咲のまんまるで大きな瞳に涙が浮かんでく。

 咲が座っていたソファーのとなりに、座ってぎゅっと肩を抱く。

 「ううん、私の方がごめんね。ほんとうに、ごめん。
 咲を忘れた日なんて、1日もないよ。大袈裟じゃなくて、咲が産まれてからずっと、一回も、離れてる時は特にずっと思ってたよ。
 咲が舞台に立ち続けてくれてるのもずっと見てた。
 チェシャ猫も、コルトも、かっこよかった。咲、凄いよ。ロミオの時は主役でかっこよくて、そうじゃなくてもみんなのことちゃんと支えて、さすが春組のリーダーだなって、私誇らしかったよ」

 もっともっと伝えなきゃいけないことがあるのに、さっぱり出てこない。
 これでもまだ足りない。

 「姉ちゃん、」
 「ん?」
 「ちょっと苦しい」
 「あ、ごめん」

 慌てて腕を離す。
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