第28章 関山
あやすのが上手いというか、なんと言うか。
「やっぱり、オレ帰る!待ってるから、早く来てね」
「ったく、しゃーねぇ。
俺も帰るわ。咲也、俺たちから芽李さん掻っ攫ってったヤローに一発決めてこいよ」
「わかった」
「まって、咲に変なこと吹き込まないで。ヤンキーになっちゃう」
「誰がヤンキー。つーか、最後の最後で逃げんなよ、芽李さん。待ってっから」
「…わかったよ」
4人で電車に乗り込んで、私の最寄りの一つ前の駅で綴くん、カズ君、万里くんが降りていく。
電車が走るまで、見送りをしてくれた3人に少しだけ大袈裟だなって思った。
「お姉ちゃん」
「どうしたの、咲」
「なんでもない。なんか、嬉しくて」
フワッと春が来たみたいに、笑った顔が可愛くて、正直正気ではいられないし、今すぐカメラを構えたい所存ではあるんだけど、いくらなんでもあまりにも不審者だから、己を抑えるのに必死になる。
「連絡、できなくてごめんね」
「それはもういいよ」
困ったように目を細める。
「咲」
「ん?」
「今から行くお家、これからいつでも来ていいから」
「いいの?」
「うん。もちろん」
お家に帰ったら、ちゃんと伝えよう。
伝えなきゃダメだ。
咲にはちゃんと。
「オレだけ特別?」
「それでもいいよ」
「冗談なのに」
「でも、咲は一生特別だよ。たった1人の本当の弟だから」
「ふふっ」
「電車とまったね、ここなんだ。最寄り駅」
「俺、この駅に降りたの初めてかも。姉ちゃんより長く住んでるはずなのにね」
2人で電車を降りて、覚えたばかりの帰路につく。
「咲、今日泊まってく?」
「姉ちゃんって、案外小心者だよね」
「咲が辛辣になった。どこの万里君の影響?」
「万里くんの影響じゃないもん。オレが辛辣なの、姉ちゃんがそんなだからだもん」
「咲が可愛い」
「ダメだ、話が通じない」
ここが公道じゃなかったら、もう抱きつきたい勢いで可愛い。
"もん"って言ってた。かわいい、可愛すぎるって。
そんなことを思っていると、あっという間に見覚えのある建物。
「って、ここ。私の家」
危ない、咲の可愛さに通り過ぎるところだった。
「可愛いね」
「うん、千景さんが選んでくれたの」
「旦那さんの名前?」