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3月9日  【A3】

第28章 関山


 あやすのが上手いというか、なんと言うか。

 「やっぱり、オレ帰る!待ってるから、早く来てね」
 「ったく、しゃーねぇ。
 俺も帰るわ。咲也、俺たちから芽李さん掻っ攫ってったヤローに一発決めてこいよ」
 「わかった」
 「まって、咲に変なこと吹き込まないで。ヤンキーになっちゃう」
 「誰がヤンキー。つーか、最後の最後で逃げんなよ、芽李さん。待ってっから」
 「…わかったよ」

 4人で電車に乗り込んで、私の最寄りの一つ前の駅で綴くん、カズ君、万里くんが降りていく。

 電車が走るまで、見送りをしてくれた3人に少しだけ大袈裟だなって思った。

 「お姉ちゃん」
 「どうしたの、咲」
 「なんでもない。なんか、嬉しくて」

 フワッと春が来たみたいに、笑った顔が可愛くて、正直正気ではいられないし、今すぐカメラを構えたい所存ではあるんだけど、いくらなんでもあまりにも不審者だから、己を抑えるのに必死になる。

 「連絡、できなくてごめんね」
 「それはもういいよ」

 困ったように目を細める。

 「咲」
 「ん?」
 「今から行くお家、これからいつでも来ていいから」
 「いいの?」
 「うん。もちろん」

 お家に帰ったら、ちゃんと伝えよう。
 伝えなきゃダメだ。

 咲にはちゃんと。

 「オレだけ特別?」
 「それでもいいよ」
 「冗談なのに」
 「でも、咲は一生特別だよ。たった1人の本当の弟だから」
 「ふふっ」
 「電車とまったね、ここなんだ。最寄り駅」
 「俺、この駅に降りたの初めてかも。姉ちゃんより長く住んでるはずなのにね」

 2人で電車を降りて、覚えたばかりの帰路につく。

 「咲、今日泊まってく?」
 「姉ちゃんって、案外小心者だよね」
 「咲が辛辣になった。どこの万里君の影響?」
 「万里くんの影響じゃないもん。オレが辛辣なの、姉ちゃんがそんなだからだもん」
 「咲が可愛い」
 「ダメだ、話が通じない」

 ここが公道じゃなかったら、もう抱きつきたい勢いで可愛い。
 "もん"って言ってた。かわいい、可愛すぎるって。
 そんなことを思っていると、あっという間に見覚えのある建物。

 「って、ここ。私の家」

 危ない、咲の可愛さに通り過ぎるところだった。

 「可愛いね」
 「うん、千景さんが選んでくれたの」
 「旦那さんの名前?」
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