第28章 関山
「お願いって」
「フライヤーの参考にするから!」
「綴くんじゃないんだから、」
「じゃぁ、絵の参考にする!!」
「余計訳わかんないから。…それに、取り立てて面白い話ないよ。
ただ一緒に生活してただけ。朝起きて、ご飯食べて、仕事して、帰ってきて、夜ご飯食べて、たまにお酒飲みながらお話しして。
お休みの日は、お買い物行ったりして」
「新婚さんって感じ〜っ」
「今の話にその要素あった??」
「うん、続けて〜っ、あ、その前にどうして今日あのバス停にいたの??」
「引っ越し」
言葉にしてからまずいと思って、言い訳を探す。
「引っ越してきたの??観光じゃなく??」
「えっと…」
「マ?それ、マ?!」
「マ?」
「マジっ?!」
「と、友達が」
「なんだ、引っ越し祝いってことかぁ」
「そういうこと」
「じゃあ、また帰っちゃうの?」
「あのさ、」
「ん??」
「えっと、あの!フライヤーすっごく良かったね!春組のチェシャ猫も、コルトも!」
これ以上ボロを出さないようにと、話を逸す。
「観てくれてたんだ、やっぱり。って!それ全部サクサクじゃん!オレは〜っ?」
「クロも、ポールもカッコよかったね。でも、やっぱりカズくんの準主演は感動的だったなぁ。
もちろん、幸君が主役っていうのも個人的にはすごく胸熱で!
だってさ、あれ、衣装係と兼任ってことだよね??
絶対大変だったよね、あ、他のクリエイティブ組の主演はやっぱりグッとくるものがあるんだけど、もちろん皆木大先生の主演のルークも良かったけど!
というか大変という言葉だけで、片付けられないんだろうなっていう、みんなの成長というか!」
「ふっ、」
カズくんが吹き出したタイミングで、やってしまったと口を塞ぐ。
「最後まで聞くのに」
寮にいた時にも見たことがあるような、真面目で優しいカズくんの一面が垣間見えるその瞬間に、頭を抱えそうになる。
これ以上絆されるな、私。
「と、とにかく。…なんていうか、やっぱりみんなはすごいなって思ったよ。
もう、追いつかない。追いつけない。…でも、最初から今までも、ずっと追いかけ続けたい背中なんだよね」
「…オレらはずっと待ってるのに」
カズくんの言葉を遮った、運転手の言葉に、誰かがボタンを押してバスが停車する。