第28章 関山
「だめ」
「ダメかぁ〜…」
しょぼーんとする姿が犬みたいで、一瞬躊躇う。
「じゃあ、お供させてよ!」
これはいい案でしょ!って、どう?って、コテンと首を傾げられれば、思わずうなづきそうになる。
ひよいっと取られた荷物は、おばあちゃんに渡そうと思ってたお土産。
「何するの」
「一緒に行っていいって、書いてある」
「どこに?」
「顔に!…いいでしょ、メイメイ」
強引に、でも的確に、私のツボをついてくるから、仕方なくうなづいた。
「やりー!」
「その代わり、これは他言無用だからね!」
「え、マジ?」
「マジ」
「なんでぇ」
「なんでも何も、みんなに合わせる顔が」
「みんなってだぁれ?」
「とにかく!他言無用!」
わかっているくせに、わざとらしく聞いてくる。
だから強めに言ったのに。
「もう他言した後だったりして」
その一言に冷や汗が流れる。
「…っ、」
「…冗談だよ、言わない。メイメイは、どこに行く予定だったの?」
「前の、職場」
「そうなんだ!オレ、行ったことあったっけ??
うーん、…なかった気がする!
何しに行くの?あ、お土産渡すのか!」
ちょうどバスが止まって、それに乗り込むと当たり前みたいに隣に座った。
その間も1人でずっと喋っている。
「ねぇ、」
「あ、ごめん!うるさかった?」
「……カズくんは、怒ってないの」
「怒る…怒る?」
「その、」
「怒ってないよ!オレ、怒るの苦手だし。
本音言えば寂しかったけど、メイメイが選んだことでしょ」
カズくんの言葉に、涙が出そうになってその時やっと、千景さんの顔が浮かんだ。
その瞬間、涙が引っ込む。
…こう言うとこかって。
「メイメイ?」
千景さんといても、なんだかんだずっとカンパニーのことを考えていた気がする。
後付けかもしれないけど。
それが、バレていたのかもしれない。
千景さんのことで泣かなかったのに、カズくんのたった一言で泣いてしまいそうになるんだから。
「…そう、私が選んだんだよ」
「うん!ねぇねぇ、どんな人なの?旦那さん!聞かせて、恋バナ」
「恋バナ?!」
「着くまでの間、ちょっとだけ!大人の恋聴きたいじゃん!」
「話すほどじゃないよ」
「お願い〜!」