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3月9日  【A3】

第27章 楊貴妃


 「嫌なの?」
 「ありがとうございます、ですけど。何か企んで…って、住所間違ってますよ?」

 ここは明らかに北海道なのに、郵便番号が明らかに違う。
 見覚えあるような…。

 「間違ってないよ」

 スラスラと慣れたように勧めるペンは、私は知らない住所だ。
 千景さんの綴る文字をなぞって読む。

 「とう、きょう…と…え、東京?!」

 見覚えあって当然だ。

 思えば、MANKAIカンパニーの郵便番号と少し桁が違うだけ。

 「…単身赴任ですか?」
 「前みたいに、"離婚"って考えないだけ及第点かな」
 「な、」

 住所を書き終えて、ペンを置いた千景さんとやっと目が合う。

 「着いてきてほしいんだけど」
 「は、」

 ニッコリと笑っているけど、私の頭は急展開についていけない。

 「実は俺の職場の本社、東京にあるんだよね」

 もう北海道を出ることはないと、どこかそう思っていたのに。

 「で、引っ越すことにしたから。
 芽李の件もだいぶ前に解決したわけだし」
 「急ですね」
 「でも困ることはないだろ?芽李の職場の雇用契約期間も明日で終わるわけだし」
 「更新」
 「するか悩んでた挙げ句、今までしてなかったってことは、気が進まないからでしょ。
 なら、心機一転もありじゃない?東京に不満?」
 「…不満というか、あんな啖呵切ってこっちにきたのに、ダサいな…とは。
 あ、いや、まぁ、カンパニーのみんなに会った場合の話ですけど」
 「向こうは案外気にしてないかもな」
 「それはそうですけど、今じゃ活躍も鰻上りで住む世界も違うって分かってますし」
 「1週間以内に荷物まとめておいて」
 「もしかして、午前中千景さんが部屋に籠っていたのって」
 「察しがいいね」
 「いつから分かってたんですか?」
 「…芽李が更新してたら、誘わなかったよ」

 じっと目を見つめられて、もう何も聞くなとそう訴えられた気がした。

 帰る場所は私と冗談でも言っておきながら、当然のように私に選択肢はない。
 正直長く一緒に住んでいても、千景さんのことはわかった気になるだけ。
 それ以上は詮索しないでくれとそんな顔をされたらもう何も言えないじゃないか。

 「わかりましたよ、着いていきます。どこまででも、夫婦ですからね」
 「さすが俺のお嫁さん」
 
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