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3月9日  【A3】

第27章 楊貴妃


 最新公演、真夜中の住人の時のものだ。

 「真夜中の住人とっても素敵だったなぁ」

 これも語り出したらキリがない。

 「…」
 「特にあの、密さんのアクション!あんなに動けるなんて、ビジュアルが良いのはもちろんなんですけど、可愛くてかっこいいだけじゃなくて、もうなんて言ったらいいか」

 私はわなわなとしながら言うものの、千景さんは少し顔を強張らせる。
 前は気づかなかった、些細な感情の起伏。

 少し待っても話出さないということは、まだ話せない内容ってことだ。

 「千景さん、そろそろお昼ですけどご飯何食べます?」

 千景さんのいじらしさに少し切なくなって、時計を見たらちょうど短針と長針が真上でピッタリと重なる頃で、思わずそれに頼る。

 「…ふっ、もうお腹すいたの?」

 たしかに今日の朝食は遅めだった。

 「ペコペコです。あ、チゲ鍋の素ありましたよね、お昼それにします?」
 「良いけど、芽李食べられるの?」

 言っても本格的な量を食べたわけでもないし軽くトーストを食べただけだし。
 まぁ、彼の心配と言えば量の話じゃなく辛さの話だろう。

 「あ、辛味調整は各自ということで。って言っても、どうせ2人じゃ大きい土鍋で食べ切れないですし、1人用の小さい土鍋で作りますけど」
 「なんだ」
 「つまらなさそうに言うけど、千景さんと一緒にしたんじゃ私の舌持ってかれますから」

 とか言いつつ、ほんとは知ってる。
 他人と共有するの、あんまり得意じゃないんだろうなってこと。

 「そう言うことにしておくか」

 私が気付いていることに、彼自身も気付いていそうではあるけれど、乗ってくれるならそれで良い。

 「あ、海鮮も入れちゃいましょうか!シーフードミックスがたしか、冷凍庫に」
 「ありかな」
 「じゃあ、さっさと片しますね」

 テーブルに広げていたグッズも含め、定一に戻す。

 千景さんは誰かさんと違って、片付け上手…というか、綺麗好きで、というより、ミニマリストなのかもしれない。

 「増えたね」
 「そうなんですよ、千景さんのお陰でもありますけど。だから整理してたんですけど、咲の可愛さに負けちゃって結局鑑賞になっちゃいました」
 「いつものことだね」
 「収納ボックスまた買わないとなぁ」
 「じゃあ、食後にでもいこうか?」
 「ありですね」
 
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