第27章 楊貴妃
最新公演、真夜中の住人の時のものだ。
「真夜中の住人とっても素敵だったなぁ」
これも語り出したらキリがない。
「…」
「特にあの、密さんのアクション!あんなに動けるなんて、ビジュアルが良いのはもちろんなんですけど、可愛くてかっこいいだけじゃなくて、もうなんて言ったらいいか」
私はわなわなとしながら言うものの、千景さんは少し顔を強張らせる。
前は気づかなかった、些細な感情の起伏。
少し待っても話出さないということは、まだ話せない内容ってことだ。
「千景さん、そろそろお昼ですけどご飯何食べます?」
千景さんのいじらしさに少し切なくなって、時計を見たらちょうど短針と長針が真上でピッタリと重なる頃で、思わずそれに頼る。
「…ふっ、もうお腹すいたの?」
たしかに今日の朝食は遅めだった。
「ペコペコです。あ、チゲ鍋の素ありましたよね、お昼それにします?」
「良いけど、芽李食べられるの?」
言っても本格的な量を食べたわけでもないし軽くトーストを食べただけだし。
まぁ、彼の心配と言えば量の話じゃなく辛さの話だろう。
「あ、辛味調整は各自ということで。って言っても、どうせ2人じゃ大きい土鍋で食べ切れないですし、1人用の小さい土鍋で作りますけど」
「なんだ」
「つまらなさそうに言うけど、千景さんと一緒にしたんじゃ私の舌持ってかれますから」
とか言いつつ、ほんとは知ってる。
他人と共有するの、あんまり得意じゃないんだろうなってこと。
「そう言うことにしておくか」
私が気付いていることに、彼自身も気付いていそうではあるけれど、乗ってくれるならそれで良い。
「あ、海鮮も入れちゃいましょうか!シーフードミックスがたしか、冷凍庫に」
「ありかな」
「じゃあ、さっさと片しますね」
テーブルに広げていたグッズも含め、定一に戻す。
千景さんは誰かさんと違って、片付け上手…というか、綺麗好きで、というより、ミニマリストなのかもしれない。
「増えたね」
「そうなんですよ、千景さんのお陰でもありますけど。だから整理してたんですけど、咲の可愛さに負けちゃって結局鑑賞になっちゃいました」
「いつものことだね」
「収納ボックスまた買わないとなぁ」
「じゃあ、食後にでもいこうか?」
「ありですね」