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3月9日  【A3】

第27章 楊貴妃


 アルバムと言っても、私が取った写真よりはるかに写りがいい、要は公式のブロマイドで作った物だ。
 なんと言われようとも、私が咲の1番のファンであり姉なのだから、どのようにして愛でようがとやかく言われる筋合いはないんだ!と、誰かに言い訳をしながらそっと写真を撫でる。

 きゅっと胸が痛む。

 「この咲、かわいいなぁ」

 ブロマイドで作ったアルバムなんて、姉弟というのに寂しいと思うのは、勝手が過ぎるか。

 アリスも錬金術師も、にぼしをめぐる冒険も海賊も、異邦人も流れ者も、ミステリーも真夜中の住人も、咲が関係なくても、全部よかった。

 春はあったかくて、夏は元気で、秋は少し寂しくて、冬は切なくて、綴くんの脚本はどれも素敵で原本を読みたいって、幸くんの衣装の手触りや細かい装飾を隅々まで堪能したいってそれもまた何度も思って、臣くんやカズくんの…以下略。

 語り出したら止まらないほど、私はまだMANKAIカンパニーが大好きで、一年にも満たなかったはずなのにみんなと過ごした一瞬一瞬をまだ鮮明に思い出せる。
 拗らせた片想いみたいで、なんだかちょっとおかしかった。

 「また見てるの?」

 コーヒー片手に隣に座ってきた千景さん、慣れたものだなぁなんて思ったのは内緒。

 部屋の掃除(仮)は、終わったみたいだ。

 「見てくださいよこの表情。可愛すぎませんか?」

 アルバムを傾けると、フっと笑う。

 「それ何回も聞いた」

 呆れたように言うくせに、いつも最後まで話を聞いてくれる。

 「うちの咲がこんなに可愛い。けど、椋くんも可愛い、みんな可愛い、愛おしすぎる」
 「はいはい」

 なんだかんだ言って優しい千景さんは、私の話に"またか"といいながら自分だって出張に行くたびにMANKAIカンパニーのグッズをお土産に持ってくる。 
 地方でたまたまとか会社にMANKAIカンパニーのオタクがいて、とかいいつつ、そうそう顔を出せない私の代わりに、そうやって集めてくれるお陰で、みんなの声も顔もなんとか忘れずに済んでいる。
 それが頻繁だから、ありがたい反面実は私に感化されて千景さんもガチ火オタクなんじゃないかと思い始めた今日この頃。
 なんて本人に言ったら、じゃあもう買ってこないとか言いかねないから絶対言わないけれど。

 冬組のフライヤーを手に取った千景さんを横目にみる。
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