第27章 楊貴妃
ー…拝啓 佐久間咲也様
お元気ですか?
あの日、きちんとお別れができずごめんなさい。
最後まで素直になれず、ごめんなさい。
謝りたいこと、謝らなければいけないこと、沢山あるのに直接会いに行かないのはお姉ちゃんのくせに意気地なしだから。
本当にごめんなさい。
MANKAIカンパニーのみんなとお芝居する姿は、とてもキラキラと輝いていて、客席から見ていても本当に楽しそうで、役者としての咲がとても誇らしいです。
地方公演やコラボカフェまでは流石に行けないけど、雑誌やテレビSNS、咲達が載ってるもの隅々までチェックしてるよ。
…立派に咲いたね。
咲自身の努力と春組のみんなの、家族の、お陰かな…ー
内容が気に入らなくて、ぐしゃぐしゃと丸めてゴミ箱に放り込む。
これを何度繰り返したことか。
お陰で自室のゴミ箱はいつも書き損じた手紙を丸めたものでいっぱいだ。
北海道にきてから何度も出そうと思った手紙は、いつまで経っても封をできないまま、というより書き終わらないまま。
ここでの生活に馴染めば馴染むほど、筆がすすまなくなってしまった。
千景さんとの生活も何不自由なく楽しかったし、あんなに意気込んでいた親戚の討伐だって…って、流石にそれは言い過ぎか。まぁそれも、千景さんの手に掛かれば案外すぐに終わってしまった。
"でも、俺たち夫婦になったわけだから"
そう言ったのは千景さんの方だ。
緩く弧を描いて細める目の奥で何を考えてるのかはわからないけれど、それでも千景さんが健やかに笑ってくれているのであれば、まぁ良いかななんて思うことにしている。
…あれからいくつ季節を超えたんだろう。
約束通り、季節ごとにMANKAIカンパニーのお芝居は見れたし、もちろん雑誌やテレビもSNSも追っかけていたし、コラボしている物だってたくさん集めた。
お陰でここに来た頃よりずっとモノが増えて、引っ越しになったら億劫だなぁ、なんて思うほどだ。
千景さんは部屋の掃除をしてくると言って席を外したまま、まだリビングには戻ってこないことをいいことに、アルバムを見ながら筆を取っていたけれど、やっぱり何を書いてもいけない気がして、そっと筆箱を閉じたのは30分くらい前のこと。
千景さんと過ごすのは楽しいけど、たまにあの賑やかな日々が恋しくなる。