第5章 小彼岸
本格的な稽古は茅ヶ崎さんもそろって明日からと言うので、今日はまず初稽古で疲れるだろうみんなのために、私はお風呂とかお夜食とかそっちのサポートをしようと、取り掛かる。
稽古が終わるのは夜9時らしいけど結局みんなが出てきたのはそれから少しすぎてだった。
スープとサンドイッチ、余ったら明日にしようと献立を考えていると、横に来たのはお風呂を終えた咲。
シャンプーの香りがする。
「お風呂気持ちよかったです、ありがとうございます!」
そう言ってニッコリ笑う彼の髪がまだ少し濡れていて、思わずクスッと笑ってしまう。
「みんなは?」
「もう少し入ってるみたいです。監督も少し作業があるからって部屋に。」
「そっか。」
「いい匂いですね」
「お腹空いてるかなって、軽く食べられるようにサンドイッチとスープ作ってみたんだけど…その前に、髪乾かさないと。風邪ひいちゃうよ」
恥ずかしそうに染まった咲の顔。
「ねぇ、よかったらドライヤーかけてもいい?」
「ぇえ?!」
「ふ、いーじゃんいーじゃん、少しくらい。お近づきの印にさ?」
嫌そうには見えなかったから少し強引に椅子に座らせて、ドライヤーを持ってくる。
「それじゃあ、熱かったらいってね?」
「ありがとうございます、酒井さん。」
すっかり言いなりになって大人しくなる咲は借りてきた猫のようで。
「肩こわばってる、そんなに緊張しなくていいのに。
それとも、やっぱりいやだった?」
少し揶揄うつもりで言えばあわあわとしだす、咲。
「いえ!そんな!!そんなことないです!!…その、くすぐったくて。人に触られることあまりないから、」
「そっか」
2人きりの談話室にはドライヤーの音だけが響いて。
…これは、私の自己満でしかないのに。
今更、少しでも咲のことが知りたい。
なんでも、してあげたい。
なんて、そんなの迷惑かな?
「酒井さん、」
「ん?」
「…っ、俺、稽古楽しかったです。綴君が、脚本を書いてくれることになって、それから、」
一生懸命話してくれる彼に耳を傾ける。
ずっと、してあげたかったこと…