第5章 小彼岸
「涙はあんなのふきのとうよ!ここぞで使わないと意味ないネ」
「涙は女の武器な!」
2人のテンポの良さのおかげで、やっと涙が止まってきて。
代わりにふふっと、思わずわらいがこみあげる。
「酒井さんは、笑ってる方が素敵です」
真っ直ぐな目で弟にそんなこと言われたら、笑うしかなくなる。
今までは別れしか知らなかったから。
どんなに不条理なことであっても、希望も大切なものもこの手を離れて行くのが理だと思っていたから。
「なんか、本当に嬉しくて…、昨日までは本当に終わったって、覚悟してたから、だから、ありがとうございます」
「何言ってんの、これからだよ。これからが始まりなんだよ」
そう言って笑ったいづみちゃんの目が優しくて、頼もしくて。
「そうっすよ!どうせだったら公演終わるまでとっておいてください。」
そんな綴君の言葉にスッと心が軽くなった。
そっか、これからは終わりじゃないんだ。
なら、もう泣かない、大丈夫。
悲しくても、
苦しくても、
嬉しくても、
この公演が終わるまでは泣かない。
舞台に立つことを決めたみんなをちゃんと支えるんだ。
それが私の役目だから、
私も、しっかりしなきゃいけない。
ポンっと場を切り替えるように手を叩いたいづみちゃんにみんなが注目する。
「公演成功させるためにも、とりあえず稽古しないとね。夕飯後レッスン室集合で大丈夫かな?」
その一声に、みんなの目が輝いてくのがわかる。
じんわりと心が温かくなるのが分かる。
うなづいたみんなの声に、胸が躍るのが分かる。