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3月9日  【A3】

第26章 紫桜


 冬組の打ち上げも学生組が寝ることになったのをきっかけに、数時間前に大人組の飲み会へと変わった。

 俺も、もちろんその会に参加させられていたわけだが。

 たった今深淵から目覚め…と、格好つけたが、東さんに潰されかけ眠った後、アルコールが切れただけだ。

 片付けは臣や監督さんあたりがしてくれたらしく、酒瓶まで綺麗に片付いていた。
 冬組のメンバーが寄り添って寝ている。
 左京さんも雄三さんに絡まれながら寝ている。

 寝ても覚めても1人は俺だけかって、時計を見たらもうすぐ4時になるところで、アルコールの匂いが微かに残る部屋を出た。

 カーテンのついていない窓から差し込んだ月明かりに誘われるように、自分の部屋には向かわず庭へと出る。

 紬によって整えられた花壇には、春を待つ種が自分の番を今かと待っているのだと、…この領分は綴か。

 ベンチに座る。

 身に沁みる寒さが、なぜか今は心地いい。

 吐いた息が白く染まって、ただそれを見ていた。

 徐に取り出したスマホの画面から、探し出した番号をタップし、発信を押す。
 こんな時間に迷惑かと思いながら、全部酔ったせいにすればいいなんて俺は悪い大人だ。

 …ゲームオーバー、攻略不可。

 呼び出しすらされず途切れたそれを、項垂れるように耳から離した。

 「さよなら、俺の初恋」

 ボソッと呟いて誤魔化すように、電話帳から取り除く。
 消すのは一瞬だったな。と、"はい"と選択をする。

 「初恋、だったんすか」

 ぴとっと、急に頬に熱。

 聞き覚えしかない声。
 今は1人になりたかったと思いながら、後頭部を下げるようにして後ろをみれば、月明かりに照らされた万里がいた。

 「お前はヒロイン枠じゃない」
 「はいはい。つーか至さん何してんすか、風邪ひきますよ」
 「んー…」

 無言で頬に当てられたコップをうけとれば、フワッとミルクの匂いがした。

 「冬の息は白く染まって、やがて星になるんだなぁって」
 「重症っすね」
 「そーでもないよ。消化したから」

 勝手に隣に座った万里に言いながら、電源を切る。

 「酔ってるのか覚めてるのかわからないや」
 「懐貸しましょうか?」
 「いらねぇー」

 ホットミルクは、少し甘くてシナモンの香りがした。

 「うま」
 「それ、前に真澄に教えてもらったんだよな」
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