第26章 紫桜
冬組の打ち上げも学生組が寝ることになったのをきっかけに、数時間前に大人組の飲み会へと変わった。
俺も、もちろんその会に参加させられていたわけだが。
たった今深淵から目覚め…と、格好つけたが、東さんに潰されかけ眠った後、アルコールが切れただけだ。
片付けは臣や監督さんあたりがしてくれたらしく、酒瓶まで綺麗に片付いていた。
冬組のメンバーが寄り添って寝ている。
左京さんも雄三さんに絡まれながら寝ている。
寝ても覚めても1人は俺だけかって、時計を見たらもうすぐ4時になるところで、アルコールの匂いが微かに残る部屋を出た。
カーテンのついていない窓から差し込んだ月明かりに誘われるように、自分の部屋には向かわず庭へと出る。
紬によって整えられた花壇には、春を待つ種が自分の番を今かと待っているのだと、…この領分は綴か。
ベンチに座る。
身に沁みる寒さが、なぜか今は心地いい。
吐いた息が白く染まって、ただそれを見ていた。
徐に取り出したスマホの画面から、探し出した番号をタップし、発信を押す。
こんな時間に迷惑かと思いながら、全部酔ったせいにすればいいなんて俺は悪い大人だ。
…ゲームオーバー、攻略不可。
呼び出しすらされず途切れたそれを、項垂れるように耳から離した。
「さよなら、俺の初恋」
ボソッと呟いて誤魔化すように、電話帳から取り除く。
消すのは一瞬だったな。と、"はい"と選択をする。
「初恋、だったんすか」
ぴとっと、急に頬に熱。
聞き覚えしかない声。
今は1人になりたかったと思いながら、後頭部を下げるようにして後ろをみれば、月明かりに照らされた万里がいた。
「お前はヒロイン枠じゃない」
「はいはい。つーか至さん何してんすか、風邪ひきますよ」
「んー…」
無言で頬に当てられたコップをうけとれば、フワッとミルクの匂いがした。
「冬の息は白く染まって、やがて星になるんだなぁって」
「重症っすね」
「そーでもないよ。消化したから」
勝手に隣に座った万里に言いながら、電源を切る。
「酔ってるのか覚めてるのかわからないや」
「懐貸しましょうか?」
「いらねぇー」
ホットミルクは、少し甘くてシナモンの香りがした。
「うま」
「それ、前に真澄に教えてもらったんだよな」