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3月9日  【A3】

第26章 紫桜


 紬達冬組の演技、終わった後の静寂。

 長いようで短いものだったのかもしれない。
 俺は祈りのようなそれに、少しボーッとしてしまった。

 割れんばかりの拍手。
 盛大な歓声。

 そこでやっと、芽李への意識が途絶えた。

 「至さん?」
 「あ?…うん」
 「大丈夫ですか?」

 咲也が俺を覗き込む。

 「うん、ヘーキ」

 鳴り止まない拍手に、カーテンコール。

 まだ終わりじゃない。
 投票を促す支配人達の声を聞きながら、きっと芽李なら、俺たちに入れてくれるんだろうな、なんてまたそんなことを考える。

 《GOD座とMANKAIカンパニーの出演者は、舞台上にお集まりください。…結果を発表します》

 走馬灯のように、俺は思い出してた。
 カンパニーで過ごした1年、その傍らに必ずいた芽李のこと。

 『GOD座、467票』

 思えば、俺を引き止めたのはお前のはずだったのにね。

 『MANKAIカンパニーー。469票。

 よって、MANKAIカンパニーの勝利です!』

 ねぇ、観てるんでしょ。
 今、どんな顔してるの?

 冬組に混じって、学生組がわちゃわちゃと喜ぶのを見ながら、当たり前にそこに芽李を探してしまう俺は重症だ。

 「完済だ」

 左京さんの言葉を耳が拾う。

 「やったー!借金完済!!」

 ふと見た咲也の笑顔に釣られて、俺もその言葉ににっこりと返す。

 「キタコレ」

 みんなの喜ぶ声。

 「みんな、今日は盛大に打ち上げしないとね!」

 ご褒美と言わんばかりに監督さんが言う。

 左京さんの監督さんへのお小言を横目に見ながら、はけていく観客の中に姿を探す。

 「…たるさん、至さん」
 「ん?あ、万里」
 「何キョロキョロして……って、芽李さんか」
 「そ。あいつ、挨拶ぐらいしてけばいいのにってね」
 「さっき帰ってたけどな」
 「は?」
 「投票始まる前くらいだったか。ちゃんと見てねぇから多分だけど、逃げるみたいに見えた」

 俺は開いた口が塞がらなかった。

 「…んで、」
 「急いでただけかもしんねぇけどな」

 やっぱり俺は、ミカエルじゃないみたいだ。

 「なんて顔してんだよ、わかんなくねぇけど。
 なぁ、至さん。行こうぜ、みんなに怪しまれちまう」
 「…わかってるよ」
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