第26章 紫桜
紬達冬組の演技、終わった後の静寂。
長いようで短いものだったのかもしれない。
俺は祈りのようなそれに、少しボーッとしてしまった。
割れんばかりの拍手。
盛大な歓声。
そこでやっと、芽李への意識が途絶えた。
「至さん?」
「あ?…うん」
「大丈夫ですか?」
咲也が俺を覗き込む。
「うん、ヘーキ」
鳴り止まない拍手に、カーテンコール。
まだ終わりじゃない。
投票を促す支配人達の声を聞きながら、きっと芽李なら、俺たちに入れてくれるんだろうな、なんてまたそんなことを考える。
《GOD座とMANKAIカンパニーの出演者は、舞台上にお集まりください。…結果を発表します》
走馬灯のように、俺は思い出してた。
カンパニーで過ごした1年、その傍らに必ずいた芽李のこと。
『GOD座、467票』
思えば、俺を引き止めたのはお前のはずだったのにね。
『MANKAIカンパニーー。469票。
よって、MANKAIカンパニーの勝利です!』
ねぇ、観てるんでしょ。
今、どんな顔してるの?
冬組に混じって、学生組がわちゃわちゃと喜ぶのを見ながら、当たり前にそこに芽李を探してしまう俺は重症だ。
「完済だ」
左京さんの言葉を耳が拾う。
「やったー!借金完済!!」
ふと見た咲也の笑顔に釣られて、俺もその言葉ににっこりと返す。
「キタコレ」
みんなの喜ぶ声。
「みんな、今日は盛大に打ち上げしないとね!」
ご褒美と言わんばかりに監督さんが言う。
左京さんの監督さんへのお小言を横目に見ながら、はけていく観客の中に姿を探す。
「…たるさん、至さん」
「ん?あ、万里」
「何キョロキョロして……って、芽李さんか」
「そ。あいつ、挨拶ぐらいしてけばいいのにってね」
「さっき帰ってたけどな」
「は?」
「投票始まる前くらいだったか。ちゃんと見てねぇから多分だけど、逃げるみたいに見えた」
俺は開いた口が塞がらなかった。
「…んで、」
「急いでただけかもしんねぇけどな」
やっぱり俺は、ミカエルじゃないみたいだ。
「なんて顔してんだよ、わかんなくねぇけど。
なぁ、至さん。行こうぜ、みんなに怪しまれちまう」
「…わかってるよ」