第26章 紫桜
「至さん、俺たちも入ろうぜ」
「だな」
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GOD座の演技が終わって、次は冬組の番。
合間の休憩時間、ロビーにごった返した人に、俺は芽李を見つけられないことも相まって、少し辟易してた。
"ナスはナス"というなんともシトロンらしい言い間違いに、綴がツッコミを入れるのをみながら、俺もゲームを攻略するみたいに、“為せば成ると見た“なんて返しながら、やっぱりそこでも芽李を探すけど、当たり前に見つけられるわけなかった。
そのうちブザーが鳴って、俺たちの運命を一身に背負う冬組の演技が始まる。
良くも悪くも、これで決まるんだ。
そう思うとぐっと心臓を掴まれたような感覚がした。
《馬鹿なミカエル》
《心配してくれるんだね、ラファエル》
《人間を好きになっても、不幸になるだけだぞ。
俺にはわかるんだ》
2人のやりとりを観ながら、俺は少しだけ考える。
今までの事、それからやっぱり芽李の事。
《人間の女を助けたい?
へぇ、お堅いミカエルがずいぶん大胆なことを考えるんだな。
それなら、人間界に下りればいい》
あの日芽李が言った"助けて"を、まだ忘れられない。
ミカエルが自分の立場を捨ててでも人間界に下りたように、俺だって原因さえ分かれば…って、馬鹿馬鹿しいな。
《彼女のはもう天に迎える日が決まっている。余計な横やりはやめてくれ》
《そのリストはあくまでも予定だよ。確定じゃない》
《だとしても、君の一存で捻じ曲げられるようなことじゃない。
あまり私情を挟むようなら、天法会議にかける》
俺はミカエルじゃないし、芽李は助けてと望みながら、どこかウリエルのようでもあった。
《彼女からの手紙だ。悪いが、もう手紙は届けられない。すまない。理由は手紙を読めばわかると思う》
そして、フィリップのようでもあった。
助けてと言いながら、俺をそれには触れさせないように拒んでるような、そんな気がしてならなかった。
《お前はもう天使に戻れない。お前と言う存在は消えてしまうんだぞ?》
《それでも、初めて愛した人を守れて、親友の君に魂を送ってもらえるんだから、俺は幸せだよ》
《ミカエルの大バカ者》
《ありがとう。永遠に君と共に…》