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3月9日  【A3】

第5章 小彼岸


 「すみません、茅ヶ崎さん。
 ハンカチもありがとうございます。洗ってお返しします。

 気をつけてかえってくださいね、明日またお待ちしてます。

 …綴君もごめんね。」
 
 「いえ。」

 私の涙腺、今日もえらく仕事をするな。
 自分でも呆れてしまう。
 今日で乾涸びてしまうんじゃないかと思いながら寮に入ると、玄関に増えたもう一つの見慣れない靴。

 「芽李さん、もう泣かないでくださいよ。」

 そう言ってもね、今日はもう止まらないと思うんだ。
 一級フラグ建築士の綴くん。

 談話室のドアを開けて数秒、いづみちゃん達と打ち解けてる見知らぬ顔のイケメン。

 「あ、芽李ちゃんお帰りなさい。綴君もありがとう」
 「おかえりなさい、酒井さん!」
 「シトロン君、彼女が芽李ちゃんよ。」

 いづみちゃんが紹介してくれると、しなやかに私の前にきて、ぎゅーっとハグをしてきた異国感漂う彼。

 「話はきいたネ!あいたかったヨ」

 パッと手を離して優雅にお辞儀するとにっこり笑って

 「初めめした、シトロンヨ!これからお世話になるネ♪」

 と言った彼。

 「初めまして、な。」

 すかさずツッコミを入れた綴くんの言葉に対する瞬発力の良さは、さすが物書きと言うべきか。

 そんなことよりも、また本人の意思と関係なくジワジワと緩んできた涙腺に、ほんと誰かどうにかしてくれよと、他人任せに思った。

 「あー、もー、ほら言わんこっちゃない!」

 そう言ってツッコミを入れる綴くんと、
 ヨシヨシと頭を撫でてくれるいづみちゃんに、
 あわあわとする咲、

 「メイは泣きむしネ?」

 って言いながらもホンワリ笑ってくれたシトロン君。
 
 「アンタが泣くと、監督まで泣きそうな顔になるから泣くな。」

 それから、ぐいっと押しつけられたティッシュ。
 素直じゃないけど優しい真澄君。

 ダメだって、君ら。

 そんなんもっと涙止まんなくなっちゃうから。
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