第5章 小彼岸
「すみません、茅ヶ崎さん。
ハンカチもありがとうございます。洗ってお返しします。
気をつけてかえってくださいね、明日またお待ちしてます。
…綴君もごめんね。」
「いえ。」
私の涙腺、今日もえらく仕事をするな。
自分でも呆れてしまう。
今日で乾涸びてしまうんじゃないかと思いながら寮に入ると、玄関に増えたもう一つの見慣れない靴。
「芽李さん、もう泣かないでくださいよ。」
そう言ってもね、今日はもう止まらないと思うんだ。
一級フラグ建築士の綴くん。
談話室のドアを開けて数秒、いづみちゃん達と打ち解けてる見知らぬ顔のイケメン。
「あ、芽李ちゃんお帰りなさい。綴君もありがとう」
「おかえりなさい、酒井さん!」
「シトロン君、彼女が芽李ちゃんよ。」
いづみちゃんが紹介してくれると、しなやかに私の前にきて、ぎゅーっとハグをしてきた異国感漂う彼。
「話はきいたネ!あいたかったヨ」
パッと手を離して優雅にお辞儀するとにっこり笑って
「初めめした、シトロンヨ!これからお世話になるネ♪」
と言った彼。
「初めまして、な。」
すかさずツッコミを入れた綴くんの言葉に対する瞬発力の良さは、さすが物書きと言うべきか。
そんなことよりも、また本人の意思と関係なくジワジワと緩んできた涙腺に、ほんと誰かどうにかしてくれよと、他人任せに思った。
「あー、もー、ほら言わんこっちゃない!」
そう言ってツッコミを入れる綴くんと、
ヨシヨシと頭を撫でてくれるいづみちゃんに、
あわあわとする咲、
「メイは泣きむしネ?」
って言いながらもホンワリ笑ってくれたシトロン君。
「アンタが泣くと、監督まで泣きそうな顔になるから泣くな。」
それから、ぐいっと押しつけられたティッシュ。
素直じゃないけど優しい真澄君。
ダメだって、君ら。
そんなんもっと涙止まんなくなっちゃうから。