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3月9日  【A3】

第25章 桐ヶ谷


 次は MANKAIカンパニーの番。

 支配人のアナウンスで幕が上がった。

 天使の話…か。

 『バカなミカエル』
 『心配してくれるんだね、ラファエル』
 『人間を好きになっても、不幸になるだけだぞ。俺には分かるんだ』

 これほど大きな舞台でやるとは思わなかったけど。
 凄いな…。

 なんて、別のことに意識を向けられていたのなんて束の間だ。

 紬さんと丞さんのやりとりに段々と目が離せなくなる。

 『人間の女を助けたい?』
 『へぇ。お堅いミカエルが随分大胆なことを考えるんだな。
 それなら、人間界におりればいい』

 紬さんや万里くんが言うように、密さんの演技は目を見張るものがあった。
 知らなかった、あの日会った密さんがこんなに自然なお芝居をやること。

 『彼女の魂はもう天に迎える日が決まってる。余計な横やりはやめてくれ』
 『そのリストはあくまでも予定だよ。確定じゃない』
 『だとしても、君の一存で捻じ曲げられるようなことじゃない。
 あまり私情を挟むようなら、天法会議にかける』

 私は知らない。
 冬組のみんなの努力も、物語も。

 『彼女からの手紙だ。
 悪いが、もう手紙は届けられない。
 すまない。理由は手紙を読めば分かると思う』

 だけど、春から見てきたから、一朝一夕でできるものじゃないことを少なからず知っている。

 『お前はもう天使に戻れない。
 お前と言う存在は消えてしまうんだぞ?』
 『それでも、初めて愛した人を守れて、親友の君に魂を送ってもらえるんだから、幸せ者だよ』
 『ミカエルの大バカ者』
 『ありがとう。永遠に君と共に……』

 幕が閉じて、これが最後だとひしひしと感じた。
 もう別々の道を歩き始めていたんだと、このお芝居をみて余計に身に染みた。

 ラファエルが天界に戻れなかったように、私もまたカンパニーには戻れない。
 もし運命が違ったら…なんて、ラファエルなら言わないんだろうな。
 私と比較するなんて、ラファエルに失礼か。

 一瞬の間のあと、割れんばかりの拍手に包まれた劇場。
 それに紛れるようにそっと席を立った。

 「この度はGOD座vs MANKAIカンパニーのタイマンACT公演にご来場いただき、誠にありがとうございます」

 近くにいたスタッフは見たことがない方だったから、多分、GOD座の人だ。
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