第25章 桐ヶ谷
「劇場戻ったら、おばあちゃんの案内お願いできないかな?その、手が空いてる時間だけでいいの。
私の早とちりで広い劇場で1人で観劇は寂しいと思うし」
「僕、主演だけど」
「っ、…そうだよね、どうしよう。万里くんに頼む…」
「落ち着けよ、簡単な話。芽李が来ればいいじゃん」
「そう言うわけには」
「お前にチケット渡したその劇団員は、おばあちゃんにもだけど、1番はお前に来て欲しかったんじゃないの?」
手が止まる。
そんなことわかってる。
だって、そう言われたから。
「敵に塩を送るわけでもないけど、僕だって芽李に見てもらえたらその…嬉しいし!
来れば?…じゃないな、来て、絶対。
閉店してからでも、間に合うでしょ。充分」
「…」
「ラッピングありがとう、…この薔薇、対マンアクト終わったら渡すんだ。
結果がどうあれ、…僕達が勝つけど!
だから、絶対来て。見届けて、最後までって、これじゃあ僕がMANKAIカンパニーの奴みたいじゃないか!」
「ふっ、…晴翔も入る?」
「馬鹿言うなよ、僕はレニさんに憧れてるんだ。あんな弱小劇団に入るわけないだろ?」
リボンを結んで、ラッピングを終える。
「そうだね、晴翔はいい奴だけど…最強で最高なうちの劇団には合わないかも」
「上等。…来るも来ないも、僕は誘うしかできない。最後に決めるのは芽李でしょ?
だから、チケット持ってなくても入れるようにしといてやる、おばあちゃんのもう一枚は芽李のなんだろうから。
弱小劇団にも言っておいてやるよ」
「…うん、ありがとう」
両手で花束を抱えた晴翔。
「似合うね、花束」
「当然。じゃあまた後で」
颯爽に帰っていく晴翔を見送りながら、やっぱり今日の仕事次第にしようなんて神任せにして、黙々と作業をする。
元々、大勢のお客さんが来るような繁盛具合でもないし、メインの通りに面しているわけでもない。
だから、よっぽどのことがない限り、行かないことの理由に仕事を言い訳にはできない。
それでも、いつも通り仕事をこなしていく。
今日ばかりは、時間が遅く過ぎればいいなんて思いながら。
その日最後のお客様は、閉店5分前にやってきた。
私の知っているようで知らない相手。
私の、…。
「いらっしゃいませ」