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3月9日  【A3】

第25章 桐ヶ谷


 なんてやりとりも、少し懐かしく感じるのはこの2、3日でグッと冬の寒さがましたから、季節が急に巡ったような気になっているせいに違いない。

 ベルの音が鳴って、顔を上げた時ピンクの髪が視界に写った。

 「よ、よう!」

 ぎこちなく、初手はあちらさん側から。

 「よう…」

 尻すぼみになったのは否めない。

 「…ご注文の品、ただいまラッピングいたしますね」

 予定より早めにきた晴翔。
 気まずそうに店内を見渡してる。

 「晴翔」
 「なんだよ」
 「今日、タイマンアクトなんだってね」
 「…口じゃなくて手を動かせっての」
 「動かしてるよ」
 「だから何?俺たちが勝っても文句言うなよ」
 「それを決めるのはお客さん、でしょ?」
 「わかってんじゃん」

 ストッカーのガラス越しに目が合う。

 「花、どうして晴翔が受け取りに来たの?」
 「何馬鹿なこと言ってんだよ、レニさんのお使い。
 それ以外も以上も、何もない」
 「そっか。…タイマンアクト前なのにって、心配しただけ」
 「お前に心配されるまでもないよ。というか僕が個人的に、注文したのも覚えてないのかよ」
 「覚えてるよ、赤い薔薇15本の花束。そこにあるでしょ、罪滅ぼし…じゃないけど、クマのピックは私からのおまけ」
 「ははっ、かわいいじゃん。芽李そっくり。
 ところでさ、ばーちゃんいないの?」
 「え?あぁ、今日ね。ばーちゃん、旦那さんとデートなんだって」
 「は?」
 「は?ってなに?」
 「あの人の旦那さん、もう居ないはずだけど?」
 「…っ、」
 「なに、別居とか施設とかそう考えてたとか?ばぁちゃんの部屋に仏壇なかったっけ?」
 「…だって、あれはお父さんって」

 と言いながら、ハッとする。

 「うわ、自分のことしか見えてなかった。
 おばあちゃん、遠くにお子さんいるし旦那さんお父さんって呼んでてもおかしくないんだ」
 「ここ、旦那さんと2人でやってた店らしいよ。僕も詳しくは知らないけど、その頃からの常連なんだって。前にレニさんに聞いた覚えがある」
 「どうしよう、私チケット2枚渡しちゃった。だっておばあちゃん旦那さんとの記念日って言うから」
 「お前そう言うとこあるよね。まぁ、仕方ないんじゃない?」
 「晴翔ごめん、お願いがあるの」
 「なんだよ、調子いいな」
 
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