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3月9日  【A3】

第5章 小彼岸


 弾んだ気持ちで寮に着くと、そのまま茶色いスーツのイケメンが寮から出てくるのに気付かずぶつかってしまった。

 「すみません、他所ごと考えてて!怪我ありませんか??」

 ピンクの目とかち合う。

 「はい。…いいえ、こちらこそ。ここの方ですか?」

 人当たりのいい笑顔を浮かべて私に尋ねてくる彼に、寮母的なものですと答えれば、そうですかとのこと。

 「セールスマンさん?」
 「いいえ。」

 じゃなかったら、
 金髪サラサラ流し目泣きぼくろイケメンを思いうかべる。
 左京さんの同業者…?

 「なわけないですよね」

 うちの寮から出てくる見知らぬイケメンなんて、また支配人新しいとこでお金借りた?

 それとも左京さんのとこの事務所の幹部?
 莇くんもかっこいいもんな……
 迫田さんも可愛いし…

 あれ?
 そうなってくると左京さんのとこ、芸能事務所やった方がいいんじゃないか?

 「…ふ、」

 吹き出した彼に、失礼だったかと思い直す。

 「茅ヶ崎至です。劇団員としてこれからこちらに、お世話になります。」

 ペコリと頭を下げてくれた彼に思わず釣られて頭を下げた。

 「っ、ありがとうございます!ほんとに、ありがとうございます!!」

 また本人の意思と関係なしにボロボロと落ちてくる涙がバレないようにさらに頭を下げれば、

 ぐいっと肩を掴まれて顔を上げさせられる。

 おい、イケメン。これは見逃すとこだろ!
 とツッコミながら見上げれば、目の前の彼がグッと息を飲むのを感じる。

 「ぶつかったとき、どこか痛めました?」

 言葉にできなくてブンブンと否定するように頭を振る。

 「そう。それならよかったです。そうしたら、これ」

 そう言ってハンカチを差し出され申し訳なくて断ろうとすれば、問答無用で目元にあてがわれる。

 強引だな!?

 イケメンは、ハンカチまでいい匂いすんのかコラ。
 でも、ありがとうございます!!

 「至さん、すみません!忘れ物を」

 ガチャっと空いたドアのまえにこんな私とイケメンの姿があれば誰だってギョッとするよね?

 ごめんなさいね?!

 「な、な、な、何してるんですか、アンタ!!
 大丈夫ですか、芽李さん!!」

 慌てて、私を庇うようにしてくれたのは綴君。

 …誤解なんだ、ごめんね。
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