第24章 紅豊
「至くん」
その声に反応し、咄嗟に時間を確認する。
「紬」
「昨日はごめんね、ありがとう」
4時すぎ。
いやいや、早いだろうと思いながら、ふっと掠めたコーヒーの匂い。
「お礼とまではいかないんだけど、俺のとっておき。眠気覚ましにどーぞ」
隣に座った紬。
テーブルに二つのカップが湯気を立てる。
「ごめんね、起こしちゃったのも」
「まだ覚めたくなかった」
俺の駄々に苦笑い。
「あのさ、色んな子に聞いたから、言うんだけど」
「なに?」
熱々のコーヒーを冷ましながら口に運ぶ。
「芽李ちゃんのこと、好きなんだよね…俺。」
「えっ、あちっ!?」
「大丈夫?」
少しだけ溢したカップの中身を拭くのを手伝ってくれる。
「なんで俺に?」
「お互いに思い合ってる2人だと思ったから」
「は?」
「ふふ、…それでね、俺は芽李ちゃんと別にどうなりたいとかはないんだけど、ここで一緒にいられたらって思ってるんだよね」
「うん?酔い残ってる?」
「ううん、大丈夫。
脈絡ないって思ってるかもしれないけど、芽李ちゃんが好きで見ていたから、至くんなら引き止められるかもしれないっておもったの。
それもあって、お迎え頼んじゃったんだよね。
勝手なことしてごめんね」
紬、たまに俺、お前が怖くなるよ。
「余計なお世話…って言いたいところだけどありがとう。
いいお土産もらったから」
「お土産?」
「うん、来世までの」
「…」
「紬?」
「いや、ちょっと呆れちゃっただけ」
「まてまて、表情とセリフあってないぞ?
っていうか、最後の砦の紬に呆れたとか言われたら救いようないじゃん、俺」
「ないね」
「辛辣」
それに、コーヒーは苦い。
「至くん、俺、芽李ちゃんに対マンアクトの日のチケット渡したんだよね」
「そうなんだ、受け取った?あいつ」
「うん、ちゃんとね」
「そっか、紬だからじゃない?」
「そういうのダメだよ、至くん。
でさ、その日の案内至くんに任せたいんだ」
「え?」
「お願いね?」
「嘘だろ?」
「俺、こんなところで嘘はつかないよ」
紬のお願いはずるいな。
言葉の裏まで見えてしまうから。
「気が向いたら、ね?」