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3月9日  【A3】

第24章 紅豊


 「至くん」

 その声に反応し、咄嗟に時間を確認する。

 「紬」
 「昨日はごめんね、ありがとう」

 4時すぎ。
 いやいや、早いだろうと思いながら、ふっと掠めたコーヒーの匂い。

 「お礼とまではいかないんだけど、俺のとっておき。眠気覚ましにどーぞ」

 隣に座った紬。
 テーブルに二つのカップが湯気を立てる。

 「ごめんね、起こしちゃったのも」
 「まだ覚めたくなかった」

 俺の駄々に苦笑い。

 「あのさ、色んな子に聞いたから、言うんだけど」
 「なに?」

 熱々のコーヒーを冷ましながら口に運ぶ。

 「芽李ちゃんのこと、好きなんだよね…俺。」
 「えっ、あちっ!?」
 「大丈夫?」 

 少しだけ溢したカップの中身を拭くのを手伝ってくれる。

 「なんで俺に?」
 「お互いに思い合ってる2人だと思ったから」
 「は?」
 「ふふ、…それでね、俺は芽李ちゃんと別にどうなりたいとかはないんだけど、ここで一緒にいられたらって思ってるんだよね」
 「うん?酔い残ってる?」
 「ううん、大丈夫。
 脈絡ないって思ってるかもしれないけど、芽李ちゃんが好きで見ていたから、至くんなら引き止められるかもしれないっておもったの。
 それもあって、お迎え頼んじゃったんだよね。
 勝手なことしてごめんね」

 紬、たまに俺、お前が怖くなるよ。

 「余計なお世話…って言いたいところだけどありがとう。
 いいお土産もらったから」
 「お土産?」
 「うん、来世までの」
 「…」
 「紬?」
 「いや、ちょっと呆れちゃっただけ」
 「まてまて、表情とセリフあってないぞ?
 っていうか、最後の砦の紬に呆れたとか言われたら救いようないじゃん、俺」
 「ないね」
 「辛辣」

 それに、コーヒーは苦い。

 「至くん、俺、芽李ちゃんに対マンアクトの日のチケット渡したんだよね」
 「そうなんだ、受け取った?あいつ」
 「うん、ちゃんとね」
 「そっか、紬だからじゃない?」
 「そういうのダメだよ、至くん。
 でさ、その日の案内至くんに任せたいんだ」
 「え?」
 「お願いね?」
 「嘘だろ?」
 「俺、こんなところで嘘はつかないよ」

 紬のお願いはずるいな。
 言葉の裏まで見えてしまうから。

 「気が向いたら、ね?」
 
 
 
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