第24章 紅豊
芽李を送り届けたあと、前に聞いていた職場の番号に電話をかけると、優しそうなご婦人の声がした。
今ここに住んでいることは、万里からそれとなく聞いていた。
ご婦人に通され、今の彼女の部屋のベットまで運ぶ。
もう慣れたもんだ。
酔って眠る彼女を運ぶのも。
「あらためまして。初めまして、茅ヶ崎至です」
「まぁ、芽李ちゃんからよく話を聞いていたのよ、送迎ありがとうね?」
「いえ。ついでですので、それより、紬に代わってですけど、すみません、こんな遅くまで…」
「そんなことないわ、私もあなたと顔を合わせられると思ってなかったからとても嬉しいのよ」
「すみません、ついでに、お願いがあるんですけど。
今日俺が送ったこと、秘密にしてくれませんか?
紬が送ったことにしてください」
頭を下げる。
今日を忘れると言ったのは、芽李だから。
「あら…」
「よろしくお願いします」
どうかよろしくと頭を下げて、逃げるように車に乗って寮へと帰る。
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寮に着いた時、あんなにいつもなら騒がしいのに、今日に限って静かだった。
せめて丞でもいればよかったのに。
ま、明日も早いもんな、なんて。
部屋にはきっと万里はいるんだろうけど…
でも、部屋に戻りたくなかった。
腕に残る芽李の感覚を確認する。
え?やっぱり俺キモイって?
わかってるっつーの、わかってるから今は放っておいてくれ。
って、俺誰に言ってるんだっつーの。
俺の部屋のには負けるけど、それなりに座り心地のいい談話室のソファに沈む。
「はぁ…」
何時間も何時間もそうしていた。
いつのまにか朝が来るのを気にもせずに。
ただひたすら、2人でいた車内を何度も何度も、繰り返し動画を見ているかのように、ひたすら思い出していた。