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3月9日  【A3】

第24章 紅豊


 「…」
 「至さんに、言いたいこと半分も言えないのに、至さんにもう言っちゃいけない言葉、何回でも言いたくなる」
 「俺に言っちゃいけないこと?」

 全部、アルコールのせいにする気?

 「…すけて、って」

 ガタンと、思わず急ブレーキ。
 信号が、赤に変わったせいで。

 「なんて?」

 何から助けて欲しいの?
 俺に、何ができるの?

 「…なんでこんなに好きになっちゃったのかな」
 「っ、」

 それだけで、それだけで充分幸せな気がしてくるの、悔しいよな。

 「私の都合で突き放すようなこと言ったのに、職場に至さんが来たことないのに、今いる場所も至さんといたことないのに、何をするのにも至さんが浮かぶの。
 なんとかやってるのに、そのうち生活もままならなくなりそうで、私なんでこんなに考えてるんだろうって思うの。
 もうダメなの。
 街に出たら、探しちゃう。
 今なんて、声を忘れる前にもう一回会えて嬉しいって、浮かれてる」

 困るってば、そんな可愛いこといっちゃってさ。

 「至さん」
 「なに?」
 「無理を承知でお願いがあるんですけど」

 どんな願いも、叶えてやりたいって。
 惚れた弱みかな。

 「内容にもよるかな」

 あまのじゃくに、意地悪を言ってしまった自覚はもちろんある。

 「よく、言うじゃないですか…生まれ変わったらって」

 少しずつ、吐息が甘くなってくのを感じる。

 「うん」

 なんか俺、こんなんばっかりじゃないですか?

 「私、前までは思わなかったんですよ。咲に対してしか。
 だから、こんなこと、初めて言うんですけど…馬鹿にして笑われても仕方ないと思うし」
 「…」
 「でも、至さんは笑わないとおもうんです。
 だから、言うんですけど…」

 まぁいいよ。

 そこまで聞けば、何を言いたいか、だいたいわかっちゃうんだ。
 それなりに、一緒にすごしてたからさ。
 ルームミラー越しにゆっくりと瞼を閉じる彼女。

 「全く、ずるいよ。お前は」

 信号が青に変わる前に、そっとキスをする。
 変態?
 言ってろ、ここまで言われたら公認なの。

 最後の思い出にする気なんだろ、芽李は。

 ならば仰せのままに。
 目が覚める頃には、いい夢に昇華してやる。

 「来世まで俺が待てばいいんでしょ」
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