第24章 紅豊
「…」
「至さんに、言いたいこと半分も言えないのに、至さんにもう言っちゃいけない言葉、何回でも言いたくなる」
「俺に言っちゃいけないこと?」
全部、アルコールのせいにする気?
「…すけて、って」
ガタンと、思わず急ブレーキ。
信号が、赤に変わったせいで。
「なんて?」
何から助けて欲しいの?
俺に、何ができるの?
「…なんでこんなに好きになっちゃったのかな」
「っ、」
それだけで、それだけで充分幸せな気がしてくるの、悔しいよな。
「私の都合で突き放すようなこと言ったのに、職場に至さんが来たことないのに、今いる場所も至さんといたことないのに、何をするのにも至さんが浮かぶの。
なんとかやってるのに、そのうち生活もままならなくなりそうで、私なんでこんなに考えてるんだろうって思うの。
もうダメなの。
街に出たら、探しちゃう。
今なんて、声を忘れる前にもう一回会えて嬉しいって、浮かれてる」
困るってば、そんな可愛いこといっちゃってさ。
「至さん」
「なに?」
「無理を承知でお願いがあるんですけど」
どんな願いも、叶えてやりたいって。
惚れた弱みかな。
「内容にもよるかな」
あまのじゃくに、意地悪を言ってしまった自覚はもちろんある。
「よく、言うじゃないですか…生まれ変わったらって」
少しずつ、吐息が甘くなってくのを感じる。
「うん」
なんか俺、こんなんばっかりじゃないですか?
「私、前までは思わなかったんですよ。咲に対してしか。
だから、こんなこと、初めて言うんですけど…馬鹿にして笑われても仕方ないと思うし」
「…」
「でも、至さんは笑わないとおもうんです。
だから、言うんですけど…」
まぁいいよ。
そこまで聞けば、何を言いたいか、だいたいわかっちゃうんだ。
それなりに、一緒にすごしてたからさ。
ルームミラー越しにゆっくりと瞼を閉じる彼女。
「全く、ずるいよ。お前は」
信号が青に変わる前に、そっとキスをする。
変態?
言ってろ、ここまで言われたら公認なの。
最後の思い出にする気なんだろ、芽李は。
ならば仰せのままに。
目が覚める頃には、いい夢に昇華してやる。
「来世まで俺が待てばいいんでしょ」