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3月9日  【A3】

第24章 紅豊


 「今日、ありがとうございます」
 「ううん、こちらこそ」
 「?」
 「紬、寝てたけどいい顔してたから。芽李、話きいてくれたんでしょ?」
 「…」
 「同じ舞台に立つからこそ、言えないことってあるんだよな。

 引き止めたいとか、そう言うの抜きにしてもさ、芽李みたいな存在で、結構助けられてたんだよ。

 みんなも、俺も。

 男は馬鹿だからさ、余計なプライドとかそう言うのもあるしね」

 言った後、しまったと思った。
 また最後に残す記憶が、クソつまんないこと言う男なんて、ダサいし。

 「…ごめん、そう言う顔させたいわけじゃない」

 言い訳もダサいか。

 「はは、俺、こう言う時にダメなんだよね。

 あぁ、コレは弱音じゃなくて、もっとちゃんと若い時に人と関わっとくべきだったって言う、いつもなら思わないんだけど」

 こう言うところが、芽李にそう言う顔させちゃうんだよなぁ。

 「…至さん」

 否定されても、仕方ないって思った。

 「なに?」

 でも、さ。
 芽李がそう言うやつじゃないの、俺が1番知ってるじゃんとも思ったわけで。

 「至さん」

 お酒のせいか、枯れてる声も切なくて甘くて、なんか俺まで酔いそうだ。

 「…うん」
 「いたるさん」

 クリスマスソングなんかなくても、日本中見たって俺たちの今が1番ロマンチックじゃない?
 なんて、必死に意識を逸らそうとする。

 「どうしたの、今日はいっぱい呼んでくれるね」

 そうじゃないと、俺どうにかなりそうでさ。

 「私今、お酒入ってるんです」

 知ってるよ。

 「うん」

 だから困ってしまうな。

 「だから、いつもよりめんどくさいし」

 そういうとこ、可愛いって思っちゃってたな。

 「明日には全部忘れるんです」

 忘れないで、覚えててよ。
 全部。
 
 「うん」
 「そうじゃなきゃ、ダメなんです」

 芽李はずるいよ、まったく。
 でも、どうしようもないくらい、まだやっぱりすきなんだよ。

 「至さんに、会いたかった。
 この間、街で見かけて、苦しかった」

 いつ?

 声かけてくれればよかったのに、なんて、口を挟めるわけもない。
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