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3月9日  【A3】

第24章 紅豊


 「紬は後ろに寝かせて…と」
 「至さん」
 「なに?」
 「紬さんのお迎え、ありがとうございます」
 「はは、うん。どういたしまして、…で、最終確認だけど」
 「なんですか?」
 「タクシーじゃなくていい?さっきは勢いでいったけど、俺に送らせてくれるの?」

 断ってくれたってよかったんだ。
 肩をすくめておどけるようにいってみた。

 「まぁ正直、ただとは言わない。紬運ぶの手伝ってくれると嬉しいんだけど」
 「…わかりました」

 そう答えてくれるかもしれないと、淡い望みをかけて思ってた。

 「ありがとう。じゃあ、助手席ね」

 エスコートするように助手席に招いて、ドアを開け座るのを待ちまた閉める。

 フワッと香ったお酒とともに、シャンプーの懐かしい匂い。

 変態か、俺は。

 「シートベルトちゃんとしめてね」
 「…はい、運転…よろしく、です」
 「うん」

 ロマンチックもくそもないな。
 相変わらずのゲーム音楽を流して、走らせる。
 イルミネーションも眠った街は暗く、クリスマスの"ク"の字も感じない。

 負け惜しみではなく、俺のイベントではない。

 「紬が酔い潰れるの初めて見た。俺よりしっかりしてるのに」

 思ったことを呟いただけ。
 拾ってくれなくてもよかった。

 「え?」

 なんて、俺さっきからくそださいな。

 「付き合いもまだ短いからだろうけど、楽しかったんだろうね」

 こんなふぬけた姿、ほんとこんな早くみると思わなかった。

 「…」

 何を考えてるんだ、俺も芽李も。

 「リーダーで抱え込んでたのもあるだろうけど」

 紬をフォローするように言う。

 「冬組、順調じゃないんですか?」

 心配するように言うから、慌ててそう言う意味深なものではないと訂正を込めて伝える。

 「どうだろうね、なんとも言えない。当事者にしかわからないこともあるでしょ」

 なんて適当か、おれは。

 「芽李は明日仕事?」
 「午前中はお休みもらってます」
 「そう、じゃあ、悪いけど紬先に降ろしてもいいかな?冬組朝から稽古なんだよね」
 「わかりました」

 芽李を見ずにつげ、了承に安堵する。

 そのうち赤信号で止まったタイミングでスマホが鳴り、ハンズフリーで片耳につけたイヤホンで対応した。

 相手は丞だった。
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