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3月9日  【A3】

第24章 紅豊


 『すみません、泣いてません。…至さん、お久しぶりです。
 紬さんですけど、今一緒に飲んでいて…眠ってしまって』
 「へ?…え?…え?」

 動揺していることに変わりはないけど。
 なんで、お前が紬と飲んでるわけ?

 『出るつもりなかったんですけど、見知った名前だったのと、紬さん、私の力じゃ送り届けられないので』

 …まぁ、確かに。

 「あ、…うん」

 でも思ったより、冷静なんだな俺。
 泣いてる声きいてたら、逆に落ち着いてきて。

 『駅前の、…ー』

 とりあえず、会って顔を見て話そうって思ったわけで。

 お店の名前を聞いて、すぐ行くからそこにいてくれって言う言葉を残し、すぐに電話を切った。

 やけに俺を止める赤信号がうざい。

 万里連れて来なくて正解だったな。…なんて。

 お店に着いてすぐ、会計の確認をして、髪と息を整えながら見覚えのある背中を目指す。肩を揺らしたのが見えた。

 そりゃ、気まずいよな。

 「…あの、」

 向こうから話しかけてくれるとは思わず、でも先ほどから妙に冷静な俺は務めて穏やかに声をかけた。

 「久しぶり、芽李。紬、回収してく」

 何も言わない彼女は何をおもってるんだろう?
 辛うじて見て取れる、申し訳ないと言う感情は俺に必要ないよ、という意味で、頼んでみる。

 「悪いけど、紬の荷物運ぶの手伝ってくれない?」
 「あ、はい」
 「お会計は、もう済んでるみたいだから」

 やっと返事をした芽李にそういえば、驚いた顔をしている。
 
 「え?」
 「店員さんがそう言ってたから」
 「ありがとうございます」
 「俺じゃないよ、紬。芽李もついでに送ってくから、荷物持てそうなら自分のも持っちゃって」

 ま、一か八かだった。
 ついでに断られてもいいと思った。

 「はい」
 「よし」

 勢いに任せただけでしょう?
 俺、全日本非力代表なんだけどと、思いつつ持ち上げた紬は、思いの外軽かった。
 綴よりも。

 慌ててその後ろをついてくる芽李、ひよこみたいだ。

 後部座席を開けるように伝え、それに従って載せるのを手伝ってくれる。
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