第24章 紅豊
『すみません、泣いてません。…至さん、お久しぶりです。
紬さんですけど、今一緒に飲んでいて…眠ってしまって』
「へ?…え?…え?」
動揺していることに変わりはないけど。
なんで、お前が紬と飲んでるわけ?
『出るつもりなかったんですけど、見知った名前だったのと、紬さん、私の力じゃ送り届けられないので』
…まぁ、確かに。
「あ、…うん」
でも思ったより、冷静なんだな俺。
泣いてる声きいてたら、逆に落ち着いてきて。
『駅前の、…ー』
とりあえず、会って顔を見て話そうって思ったわけで。
お店の名前を聞いて、すぐ行くからそこにいてくれって言う言葉を残し、すぐに電話を切った。
やけに俺を止める赤信号がうざい。
万里連れて来なくて正解だったな。…なんて。
お店に着いてすぐ、会計の確認をして、髪と息を整えながら見覚えのある背中を目指す。肩を揺らしたのが見えた。
そりゃ、気まずいよな。
「…あの、」
向こうから話しかけてくれるとは思わず、でも先ほどから妙に冷静な俺は務めて穏やかに声をかけた。
「久しぶり、芽李。紬、回収してく」
何も言わない彼女は何をおもってるんだろう?
辛うじて見て取れる、申し訳ないと言う感情は俺に必要ないよ、という意味で、頼んでみる。
「悪いけど、紬の荷物運ぶの手伝ってくれない?」
「あ、はい」
「お会計は、もう済んでるみたいだから」
やっと返事をした芽李にそういえば、驚いた顔をしている。
「え?」
「店員さんがそう言ってたから」
「ありがとうございます」
「俺じゃないよ、紬。芽李もついでに送ってくから、荷物持てそうなら自分のも持っちゃって」
ま、一か八かだった。
ついでに断られてもいいと思った。
「はい」
「よし」
勢いに任せただけでしょう?
俺、全日本非力代表なんだけどと、思いつつ持ち上げた紬は、思いの外軽かった。
綴よりも。
慌ててその後ろをついてくる芽李、ひよこみたいだ。
後部座席を開けるように伝え、それに従って載せるのを手伝ってくれる。