第24章 紅豊
side 至
「至さん。ケータイ鳴ってる」
今日も今日とて、万里とゲーム中。イマイチ身が入らないのはなぜか。
「誰?」
「丞さんだって」
「万里出て〜」
「無理、今いいところ!っと!よっしゃ!!」
ため息をついて取ったスマホ。
「丞〜、今日イベって言ったじゃん、何事?」
『茅ヶ崎、悪いけど紬の迎えに行ってくれないか?』
「なに?なんでなんで?」
『頼まれてたんだが、急用が出来てすぐに動けないんだ。
紬からも、俺が無理なら茅ヶ崎にって言われてる』
「まぁ、車持ち俺しかいないもんね、丞以外で」
『住所は送る。悪いな』
いいとも言ってないのに、電子音が鳴って切られたのを察する。
「なんだって?丞さん」
「紬のこと代わりに迎えに行けってさ」
「オツ〜」
「お前も行くんだよ」
「俺、今外せないんで無理っす。いってら〜」
人のソファに寝転がりながら言うもんだから、思いっきり蹴り上げて、支度を始める。
紬だと断れないんだよな、なんか。
まもなく、丞から送られてきたラインのスクショは正直解読不可で、万里に聞いても画面に映した視線をこっちにくれるわけもなく、仕方なしに電話をかけても出ないし。
車に乗り込んでもう一度電話をかけた時、やっと通じたことを察する。
「もしもし。…やっと出た。紬、誤字多過ぎ。
丞からスクショ送られてきて、代わりに迎え行けって言われたんだけど、シトロンかよって言うぐらいの誤字で店の名前解読不可なんだけど、どうするの、どこ行けばいいの?」
やっと出た、やれやれと言う思いで電話の向こうに話しかけても反応なし。
『っ、』
辛うじて聞こえてきたのは、息を呑むような音。
「あのー…聞いてる?」
まさか俺に驚いてる?…わけないよね?
「…もしもし、」
不審に思いながらはなしかけると、嗚咽するような音がして冷や汗が流れる。
いろんなパターンを考えてしまった。
「え?女の子?泣いてる?え?」
痴情のもつれ?
え?
そんなことある?万里ならともかく、紬にそれある?
ないな、無いよな?
俺迎えに行って大丈夫そ?
丞、お前後で覚えてろよ?!
「…あれ?紬だよな。もしもし?」
意を決して話しかけたら、なんだかすごく聞きたくなかったような声がした。