第23章 萬里香
「引き止めたいとか、そう言うの抜きにしてもさ、芽李みたいな存在で、結構助けられてたんだよ。みんなも、俺も。
男は馬鹿だからさ、余計なプライドとかそう言うのもあるしね。
…ごめん、そう言う顔させたいわけじゃない。
はは、俺、こう言う時にダメなんだよね。あぁ、コレは弱音じゃなくて、もっとちゃんと若い時に人と関わっとくべきだったって言う、いつもなら思わないんだけど」
「…至さん」
「なに?」
「至さん」
「…うん」
「いたるさん」
「どうしたの、今日はいっぱい呼んでくれるね」
「私今、お酒入ってるんです」
「うん」
「だから、いつもよりめんどくさいし、明日には全部忘れるんです」
「うん」
「そうじゃなきゃ、ダメなんです」
自分がずるいことを自覚している。
どうしようもないことも。
「至さんに、会いたかった。
この間、街で見かけて、苦しかった」
「…」
「至さんに、言いたいこと半分も言えないのに、至さんにもう言っちゃいけない言葉、何回でも言いたくなる」
「俺に言っちゃいけないこと?」
全部、アルコールのせいだ。
「…すけて、って」
ガタンと、急ブレーキ。
信号が、赤だから。
「なんて?」
「…なんでこんなに好きになっちゃったのかな」
「っ、」
「私の都合で突き放すようなこと言ったのに、職場に至さんが来たことないのに、今いる場所も至さんといたことないのに、何をするのにも至さんが浮かぶの。
なんとかやってるのに、そのうち生活もままならなくなりそうで、私なんでこんなに考えてるんだろうって思うの。
もうダメなの。
街に出たら、探しちゃう。
今なんて、声を忘れる前にもう一回会えて嬉しいって、浮かれてる」
困らせてるって、わかってる。
「至さん」
「なに?」
「無理を承知でお願いがあるんですけど」
「内容にもよるかな」
「よく、言うじゃないですか…生まれ変わったらって」
「うん」
「私、前までは思わなかったんですよ。咲に対してしか。
だから、こんなこと、初めて言うんですけど…馬鹿にして笑われても仕方ないと思うし」
「…」
「でも、至さんは笑わないとおもうんです。
だから、言うんですけど…」
そこには、ルームミラー越しに微笑む至さんがいた。
目の前が白く染まる。