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3月9日  【A3】

第23章 萬里香


 「引き止めたいとか、そう言うの抜きにしてもさ、芽李みたいな存在で、結構助けられてたんだよ。みんなも、俺も。
 男は馬鹿だからさ、余計なプライドとかそう言うのもあるしね。

 …ごめん、そう言う顔させたいわけじゃない。

 はは、俺、こう言う時にダメなんだよね。あぁ、コレは弱音じゃなくて、もっとちゃんと若い時に人と関わっとくべきだったって言う、いつもなら思わないんだけど」
 「…至さん」
 「なに?」
 「至さん」
 「…うん」
 「いたるさん」
 「どうしたの、今日はいっぱい呼んでくれるね」
 「私今、お酒入ってるんです」
 「うん」
 「だから、いつもよりめんどくさいし、明日には全部忘れるんです」
 「うん」
 「そうじゃなきゃ、ダメなんです」

 自分がずるいことを自覚している。
 どうしようもないことも。

 「至さんに、会いたかった。
 この間、街で見かけて、苦しかった」
 「…」
 「至さんに、言いたいこと半分も言えないのに、至さんにもう言っちゃいけない言葉、何回でも言いたくなる」
 「俺に言っちゃいけないこと?」

 全部、アルコールのせいだ。

 「…すけて、って」

 ガタンと、急ブレーキ。
 信号が、赤だから。

 「なんて?」
 「…なんでこんなに好きになっちゃったのかな」
 「っ、」
 「私の都合で突き放すようなこと言ったのに、職場に至さんが来たことないのに、今いる場所も至さんといたことないのに、何をするのにも至さんが浮かぶの。
 なんとかやってるのに、そのうち生活もままならなくなりそうで、私なんでこんなに考えてるんだろうって思うの。
 もうダメなの。
 街に出たら、探しちゃう。
 今なんて、声を忘れる前にもう一回会えて嬉しいって、浮かれてる」

 困らせてるって、わかってる。

 「至さん」
 「なに?」
 「無理を承知でお願いがあるんですけど」
 「内容にもよるかな」
 「よく、言うじゃないですか…生まれ変わったらって」
 「うん」
 「私、前までは思わなかったんですよ。咲に対してしか。
 だから、こんなこと、初めて言うんですけど…馬鹿にして笑われても仕方ないと思うし」
 「…」
 「でも、至さんは笑わないとおもうんです。
 だから、言うんですけど…」

 そこには、ルームミラー越しに微笑む至さんがいた。
 目の前が白く染まる。
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