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3月9日  【A3】

第23章 萬里香


 「芽李は明日仕事?」
 「午前中はお休みもらってます」
 「そう、じゃあ、悪いけど紬先に降ろしてもいいかな?冬組朝から稽古なんだよね」
 「わかりました」

 至さんはこっちも見ずに告げて、そのうち赤信号で止まったタイミングで至さんのスマホが鳴る。
 ハンズフリーで片耳につけたイヤホンで対応した、至さんの声は少し低く感じた。

 「丞、終わったみたい。
 途中のコンビニで紬、回収してくれるって。
 だからコンビニ寄ってもいい?」
 「はい」
 「ごめんね」

 至さんがそう言って入ったコンビニは、いつの朝か、私に棒突きのお菓子を買ってくれたコンビニだ。

 至さんをちゃんと、初めて意識したあのコンビニ。

 数ヶ月前なのに、もう懐かしい。

 車が一台止まっていて、それが丞さんのだと至さんが駐車場に停めながら言った。

 至さんがエンジンを停めたタイミングで、丞さんが降りてくる。

 私も降ろすのを手伝った方がいいかと、至さんと同じように車の外に出た。

 「茅ヶ崎、悪いな。…って、お前」
 「こんばんわ、丞さん」
 「紬と飲んでたのお前だったのか」
 「えぇ」
 「…そっか、悪いな。迷惑かけなかったか?」
 「いいえ、楽しかっですよ。明日、朝練あるのにすみません、酔い潰しちゃいました」
 「…ふ、いいや、大丈夫だ」
 「丞、俺と芽李への当たり違い過ぎない?俺ゲームのイベの途中だったのにさー。
 まぁいいけど」
 「茅ヶ崎も、ありがとうな。じゃあ2人とも、…じゃないな、茅ヶ崎、常識の範囲内で、な?」
 「ご忠告どーも。じゃあ、紬のことよろしく」
 「あぁ」
 「さ、芽李、送ってく」
 「あ、はい。あの、これ紬さんの荷物です」
 「あぁ、ありがとう。紬に変わって言っておく、茅ヶ崎だから大丈夫だとは思うが、お前も気をつけて帰れよ?」
 「はい、丞さんも。舞台、頑張ってください」

 ぺこりと頭を下げると、至さんがまた助手席までエスコートしてくれた。

 至さんも乗り込んで、エンジンがかかる。

 「至さん」
 「…何?」
 「今日、ありがとうございます」
 「ううん、こちらこそ」
 「?」
 「紬、寝てたけどいい顔してたから。芽李、話きいてくれたんでしょ?」
 「…」
 「同じ舞台に立つからこそ、言えないことってあるんだよな」
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