第23章 萬里香
「丞も、密くんも、東さんもそれぞれあるみたいですし、俺も芽李さんとの時間が欲しかったってだけです。
たまたま、誉さんとそういう話になって…
子供みたいな理由に付き合わせてすみません」
「…私は、もうカンパニーには所属していないのに?」
「ふ、…意地悪ですね」
「水を差すようですみません」
「でも、みんな…芽李さんを諦めてませんよ。
俺も、今日会った感触次第で、決めようって思ってたんです」
今日はふわふわしている割に、よく話してくれる。
いつもは聞き上手なイメージだったのに、なんだか少し嬉しいのと、気まずいのとで、むず痒い。
「どうでした?私は」
「ご自身が1番わかってるんじゃないかなって。
例えば、お店の1番目立つところに俺たちのポスターを貼ってくれていたり」
「それは、店長の意向で」
「密くんをカンパニーに仕向けたり」
「仕向けたって…」
「密くん、すごくお芝居上手なんですよ。タイプで言ったら、三角くんに近いかな。
それに、なんだかんだお店に出向く、俺たちを拒まめない」
「それは、お客様だからで」
「俺の誘いに乗ってくれたのも、気になっていたからでしょう?
俺たちのこと」
芯のある目が私を捉えたから、体が硬直してしまった。
「万里くんがしばらく顔を見せていないって言ってたんです」
「紬さんは、半分、万里くんに仕向けられたから、私のところに来たんですか?」
「会いに行けば?って、アドバイスはしてくれましたけど、俺がただ会いたかったんですよ、…って、伝わってませんか?」
「っ、」
「芽李さん、聞きました。ご結婚なさること。おめでとうございますって、言いたくないです。正直言うと…だから、コレ受け取ってください」
冬組のロゴが入った淡い水色の細長い封筒。
「ゴット座と、対マンアクトをすることになったんです。
俺たちは、それを受けることにしました。
俺の意思に、みんなを巻き込んで…」
「…」
「この一瞬でいい、ひと時でいい。
俺のこと、1番そばで見ててくれませんか?
俺がもう逃げないように、この先もずっと…舞台に立ち続けられるように」
「…」
「チケット2枚入ってます。店長さんと、2人で来られるように」
「おばあちゃん、喜ぶと思います」