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3月9日  【A3】

第23章 萬里香


 「丞も、密くんも、東さんもそれぞれあるみたいですし、俺も芽李さんとの時間が欲しかったってだけです。
 たまたま、誉さんとそういう話になって…
 子供みたいな理由に付き合わせてすみません」
 「…私は、もうカンパニーには所属していないのに?」
 「ふ、…意地悪ですね」
 「水を差すようですみません」
 「でも、みんな…芽李さんを諦めてませんよ。
 俺も、今日会った感触次第で、決めようって思ってたんです」

 今日はふわふわしている割に、よく話してくれる。
 いつもは聞き上手なイメージだったのに、なんだか少し嬉しいのと、気まずいのとで、むず痒い。

 「どうでした?私は」
 「ご自身が1番わかってるんじゃないかなって。
 例えば、お店の1番目立つところに俺たちのポスターを貼ってくれていたり」
 「それは、店長の意向で」
 「密くんをカンパニーに仕向けたり」
 「仕向けたって…」
 「密くん、すごくお芝居上手なんですよ。タイプで言ったら、三角くんに近いかな。
 それに、なんだかんだお店に出向く、俺たちを拒まめない」
 「それは、お客様だからで」
 「俺の誘いに乗ってくれたのも、気になっていたからでしょう?
 俺たちのこと」

 芯のある目が私を捉えたから、体が硬直してしまった。

 「万里くんがしばらく顔を見せていないって言ってたんです」
 「紬さんは、半分、万里くんに仕向けられたから、私のところに来たんですか?」
 「会いに行けば?って、アドバイスはしてくれましたけど、俺がただ会いたかったんですよ、…って、伝わってませんか?」
 「っ、」
 「芽李さん、聞きました。ご結婚なさること。おめでとうございますって、言いたくないです。正直言うと…だから、コレ受け取ってください」

 冬組のロゴが入った淡い水色の細長い封筒。

 「ゴット座と、対マンアクトをすることになったんです。
 俺たちは、それを受けることにしました。
 俺の意思に、みんなを巻き込んで…」
 「…」
 「この一瞬でいい、ひと時でいい。
 俺のこと、1番そばで見ててくれませんか?
 俺がもう逃げないように、この先もずっと…舞台に立ち続けられるように」
 「…」
 「チケット2枚入ってます。店長さんと、2人で来られるように」
 「おばあちゃん、喜ぶと思います」
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