第23章 萬里香
「で、それで今日はどうして誘ってくれたんですか?」
「それはまぁ、…昼間にお伝えした通り、芽李さんに喝を入れていただきたいな、と、」
照れ隠しなのか、人差し指で頬を少し掻いて、ニコッてとはにかんだ紬さんは、お酒のおかげかこの場に酔っているのか、はたまた別のものなのか、ほわほわとしていて成人済み男性がこれとか、けしからんなんて、私も酔っているのかもしれない。
それもそうだ、このグラスを傾けるまでもう3本くらい開けているのだ。
「あと、万里くんが少し前に芽李さんと会ったこととか、真澄くんがお仕事手伝った時のこととか、あと、芽李さんが素直じゃないこととか、色々伺ったので…
本当のことを言うと、んー…ヤキモチ、みたいな。
他の組のみんなは、特に春組のみんなは芽李さんもいて、お芝居もできて、いや、俺たちもお芝居は出来ているんですけど、つまり、芽李さんにいて欲しかったっていうか。
すみません、やっぱり少し酔っているのかも」
「わたしこそ、私の都合ですみません」
「…俺の話ばかりで申し訳ないんですけど、それこそあのスーパーで偶然お会いした時、兄弟の話になったの覚えてます?」
「はい」
「兄弟は居ないんですけど、幼馴染の丞と兄弟のように育ったんです。
それで、まぁ2人でお芝居にハマって、学生演劇をしていたんですけど、ゴット座の入団試験で、俺が落ちてしまったことでギクシャクしてしまって。
芽李さん言ってたじゃないですか、MANKAIカンパニーは俺を傷つけるものはないって、…たしかに、傷ついたわけじゃないんです。
今は、もう一度丞と舞台に立てること、素直に嬉しいと思うんですけど、少し前まで、こんな時に芽李さんが居てくれたらって、…まぁ、甘えなんですけど」
小さく喉を鳴らしてお酒を傾ける。
「心の拠り所みたいな芽李さんが居てくれたからこそ、みんな、きっと頑張るんだと思います。
幸ちゃんが、衣装の採寸の時こっそり教えてくれたんです。
芽李さんと初めて会った時、そっと掬い上げてくれたから、優しく傷に触れてくれたから、最終的にカンパニーに入ることにしたって。
みんなそれぞれ、芽李さんとの思い出があるの、いいなって」
熱を帯びる視線に、めまい。