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3月9日  【A3】

第23章 萬里香


 「それじゃあ、二人とも気をつけてね」
 「はい、行ってきます」

 今日もまた、さりげなく雪が降り始めた。

 「雪、降り始めましたね」
 「そうですね、寒くありませんか?」
 「少しだけ、でもバッチリ防寒してきたので」
 「そうですか。よかったです。…なんていうか、2人で出かけるって、知り合ってから結構するのに、初めてですよね」
 「たしかに。…ふふ、参ったな」
 「どうしたんですか?」
 「少しだけ、舞い上がってるなと、思って。
 芽李さんと一緒にいた咲也くんに初めて会った日、あの日少しだけ咲也くんが羨ましいなって、思ったんです」
 「そうなんですか?」
 「はい。だから、今日は、少しだけ浮かれていて…すみません、なんか」

 いつも落ち着いて見える紬さんが、確かに少しふわふわしていて、なんだか可愛らしい。

 「今から向かうところ、BARなんですけど、芽李さん飲めましたよね?」
 「えぇ、お酒すきですよ。BARなんて、オシャレすぎてあまり行かないけど…でも、たのしみです」
 「よかった。俺、カフェを巡るのがすきで。たまに万里くんと行くんですよ。
 その時にみつけたんですよね、ここです」

 こじんまりとしたたたずまい。
 綺麗に手入れされた鉢が並んでいる。

 「季節によって、お花を変えてるみたいです」
 「素敵ですね」
 「そうですよね。どうぞ」

 木製の扉を開け、エスコートしてくれる紬さん。
 なんていうか、様になっている。

 「ふふっ」
 「どうしました?」
 「なんていうか、かっこいいなって思って」

 すると急にあわあわしだす。

 「その、…不意打ちはやめてください」
 「不意打ち?」
 「はい、不意打ち。だめです、絶対。…って、予約していた月岡です」

 店員さんに見つめられて、余計顔を赤くした紬さん。
 肌が白いから、余計目立つ。

 案内された席には、少し早いスイトピーが飾られている。
 自然を思わせる内装、メニューに添えられた挿絵がかわいい。

 「いいお店ですね」
 「こういう雰囲気、好きですか?」
 「すごく、好きです」
 「よかった。
 メニューどうします?」
 「紬さんのおすすめ、いいですか?すみません、私来慣れてなくて」
 「もちろん」

 注文してくれた紬さんは、やっぱり様になっていた。
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