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3月9日  【A3】

第23章 萬里香


 「そんなことないです。紬さんは、繊細で優しい人…だと思うので、私が知ってる範囲では」
 「そうですか?」
 「だから、カンパニーに来て欲しいって思ったんです。
 リーダーは、知らなかったんですけどこの間、万里くんと真澄くんが来て、天使が出るお話だと、軽く。
 部外者なのにすみません」
 「部外者だなんて、そんな、」
 「天使、似合うんだろうな…って、こっそり想像してました。
 紬さんも天使やるんですよね?」
 「そうです。俺なんかがって、思うんですけど、主役を貰ったからこそ、キチンとしなきゃって。
 今日は稽古お休みの日なんですけど、それで、芽李さんに喝を入れてもらおうと」

 照れ笑いするように肩をすくめた紬さん。
 その先に水仙の花。

 「じゃあ、コレ」
 「え?」

 その一株を差し出す。

 「喝です。花屋としての私の」
 「水仙?」
 「紬さんぽかったので。神秘、でしたっけ、花言葉」
 「俺、神秘ですか?」
 「ふふ、」
 「…わかりました。ご期待に添えるよう、神秘的に演じますね?」

 困ったように笑って、その一株を受け取る。

 「水仙も、もらって行こうかな。
 それと、さっき決めたお花達も」
 「はい、ご注文のお品、3日ほどで届くと思うので、まとめてその時でもいいですか?」
 「お願いします」
 「はい、承りました」
 「あぁ、それと。さっき言った、仕事終わりに時間貰いたいって話なんですけど」
 「はい」
 「仕事終わるくらいに、迎えに来ますね?」
 「わかりました」

 紬さんの雰囲気が強引じゃないから、なんて、都合よく言い訳してうなづく。

 「近くにいいお店あるので」
 「楽しみにしてます、」

 お会計を済ませた紬さんを見送る。

 「芽李ちゃん、紬ちゃん、もう行ってしまった?」
 「おばあちゃん。ええ、ついさっき」
 「そう。ほら、左京ちゃんの舞台見せてもらったでしょう?凄くハマってしまって。紬ちゃんが出るのも見たかったのだけれど」
 「伝えておきます、それから今日、夜紬さんと少し出掛けてきます」
 「嬉しいわ。紬ちゃんに、よろしくね」
 「はい」

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 夕方になり、客足も減ってきた頃、閉店間際に迎えにきた紬さんは、ついでだからと店じまいを手伝ってくれた。

 毎度のことながら、優しいひとだと思う。
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