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3月9日  【A3】

第23章 萬里香


 薔薇の花束の本数か…。
 あとで調べてみようとせず、気になったらすぐ調べればよかったな、と思うのはもう少し先の話。

 「こんにちは」
 「あらぁ、紬ちゃん、いらっしゃい」
 「いらっしゃいませ」
 「お久しぶりです、なかなか顔出せずすみません。芽李さんも、ここに来たらお会いできるとは思ってたんですが、中々忙しくて」
 「冬組もうすぐ公演期間ですもんね」
 「ええ。…あ、そうだ。芽李さん、お仕事終わったらお時間あります?」
 「え?…あ、はい」

 思わずうなづいてしまった。

 「よかったです。聞いて欲しいお願いがあったので、あと、それからお花、苗とタネが欲しくて」
 「はい」
 「花壇に植えたいんですけど、何かおすすめありませんか?」

 ニッコリと笑った紬さん。

 「花壇、ですか」

 過ったのは、カンパニーの寮。
 たしか、手付かずだった。

 「俺、お庭番長になったので」
 「お庭番長ですか?」
 「えぇ。カンパニーの寮、お花が咲いたら素敵だと思いませんか?」
 「…ふふ、確かに」
 「何がいいか、一緒に選んでくれませんか?」
 「…」
 「素敵ね、芽李ちゃん。素敵なの選んであげないと」
 「だめ、ですかね?」
 「…いえ、ダメじゃありません。どのくらい、ご入用ですか?」
 「よかった。とにかく、沢山。
 丞に車頼んだので、揃い次第取りに来るっていう感じでも、いいですか?」
 「はい」

 店先に並んだ花とカタログを交互に見ながら、これを植えたらいいんじゃないか、あれも素敵だといいながら、数個の苗とタネを探す。

 「そういえば、芽李さん。知ってますか?」
 「なんです?」
 「MANKAIカンパニーの由来、役者が花を咲かせるようにって」

 紬さんと目が合う。
 割と至近距離だったことに驚く。

 「…俺も、また咲けるのかな」
 「え?」
 「咲けたらいいなって、思います」
 「絶対、大丈夫です。紬さんなら」
 「俺なら、大丈夫…か。不思議なんですけど、芽李さんが言ってくれる絶対は、本当に絶対な気がして」
 「…」
 「寮の花壇作り直す体で、"絶対大丈夫"を、言ってもらいに来ました。
 誰かに聞いてるかもしれないけど、俺が冬組のリーダーになったんですよ」
 「…」
 「らしくないですよね、」
 
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