第23章 萬里香
薔薇の花束の本数か…。
あとで調べてみようとせず、気になったらすぐ調べればよかったな、と思うのはもう少し先の話。
「こんにちは」
「あらぁ、紬ちゃん、いらっしゃい」
「いらっしゃいませ」
「お久しぶりです、なかなか顔出せずすみません。芽李さんも、ここに来たらお会いできるとは思ってたんですが、中々忙しくて」
「冬組もうすぐ公演期間ですもんね」
「ええ。…あ、そうだ。芽李さん、お仕事終わったらお時間あります?」
「え?…あ、はい」
思わずうなづいてしまった。
「よかったです。聞いて欲しいお願いがあったので、あと、それからお花、苗とタネが欲しくて」
「はい」
「花壇に植えたいんですけど、何かおすすめありませんか?」
ニッコリと笑った紬さん。
「花壇、ですか」
過ったのは、カンパニーの寮。
たしか、手付かずだった。
「俺、お庭番長になったので」
「お庭番長ですか?」
「えぇ。カンパニーの寮、お花が咲いたら素敵だと思いませんか?」
「…ふふ、確かに」
「何がいいか、一緒に選んでくれませんか?」
「…」
「素敵ね、芽李ちゃん。素敵なの選んであげないと」
「だめ、ですかね?」
「…いえ、ダメじゃありません。どのくらい、ご入用ですか?」
「よかった。とにかく、沢山。
丞に車頼んだので、揃い次第取りに来るっていう感じでも、いいですか?」
「はい」
店先に並んだ花とカタログを交互に見ながら、これを植えたらいいんじゃないか、あれも素敵だといいながら、数個の苗とタネを探す。
「そういえば、芽李さん。知ってますか?」
「なんです?」
「MANKAIカンパニーの由来、役者が花を咲かせるようにって」
紬さんと目が合う。
割と至近距離だったことに驚く。
「…俺も、また咲けるのかな」
「え?」
「咲けたらいいなって、思います」
「絶対、大丈夫です。紬さんなら」
「俺なら、大丈夫…か。不思議なんですけど、芽李さんが言ってくれる絶対は、本当に絶対な気がして」
「…」
「寮の花壇作り直す体で、"絶対大丈夫"を、言ってもらいに来ました。
誰かに聞いてるかもしれないけど、俺が冬組のリーダーになったんですよ」
「…」
「らしくないですよね、」