第23章 萬里香
特に何をするわけでもなく、注文だけして店を出た晴翔が、思いの外あっけらかんとしていたから、少し不思議な気持ちがした。
「芽李ちゃん、誰か来てたの?」
「晴翔が、注文に。いつものと、あと薔薇の花束。
クリスマスに渡すそうで」
「そう、ありがとうね」
「いえ」
真澄くんから渡された台本は、まだ目を通していない。
やっぱり、もう関係者じゃいけないと、開けずにいた。
監督のカレーは、すぐに食べた。
懐かしいような、いつもの味だった。
カレーを入れてくれた容器は、未だキッチンの隅にある。
万里くんがひょっこりと顔を出したら、お願いしようと思ったのに、あの日以来来ることはなかった。
まぁ、困るって言っちゃった反面、そうなるのも当然だった。
寮に戻るまで毎日説得しに来るというようなことを言ったけど、相手はまだ高校生で、しかも今は冬組の準備の手伝いやら、勉強やらで忙しいんだと思う。
…おかげで、少し心穏やかに過ごしていた。
花屋での生活は忙しい時もあるけど、おばあちゃんがゆったりと構えてくれてるから、私も落ち着いていられた。
わくわくもドキドキも、確かに少なかったけど、あの毎日が夢だったんだと思うことでうまく昇華できていたように思う。
「それにしても、クリスマスにバラの花束なんてプレゼント粋というか、ロマンチストというか」
「弦ちゃん、いい男の子だもの。何本のご注文だったのかしら?」
「15本です。花束にして、私が好きなようにラッピングしてって。
おばあちゃん、私のサービスでいいから、あの可愛いテディベアのサンタのピック刺してもいいですか?」
「あら、素敵ね?いいと思うわ。芽李ちゃん、あのテディ好きって言ってたものね」
「はい。それにさっき、少し嫌な態度とっちゃったので、大人気なく」
「喧嘩もほどほどにね?」
「はーい。それにしても、クリスマスですし、告白でもするんですかね?」
「芽李ちゃん、バラの花言葉、本数で違うのはしってる?」
「詳しくはないですけど、108本で結婚申し込むという感じで、999本で生まれ変わっても、でしたっけ?
そんなにもらっても困っちゃうよなぁって、前に何かで読みました」
「そう」
「やっぱり、15本にも意味があるんですか?」
「どうかしらね?」