第23章 萬里香
「俺、もう中はいる。ソレ、ちゃんとアンタに渡したから。
じゃあ、おやすみ。芽李」
「うん、おやすみ、真澄くん。
これ、ありがとう。グダグダいったけど、本当は1番嬉しかった」
「雪道、気をつけて」
「うん」
真澄くんが、寮に入ってくのを見送って、エンジンをつけた。
紙袋に入ったお土産は、私の胸を少し熱くした。
アクセルをゆっくり踏む。
"行って来ます"は、ほんの少し重く感じた。
寮の裏、細道を抜けて大通りを進む。
「あ…」
赤信号で止まる。
ふと歩道に目をうつした時、車窓越しに久しぶりに見かけたその人は、街頭に照らされて、ロングコートを羽織り首元にはマフラーをしてすっかりと冬支度になっていた。
傘をささないから、少し頭には雪を積もらせて。
引き留めて話すことも、寮に送り届けることもできたのに、薄情な私はそれがどうしてもできなかった。
向かうが気づいてくれたら、
目があったら…。
信号の点滅、目の前のその人は、駆け足で私の前を通り過ぎていった。
「至さん…」
何を今更、未練がましく。
最後に言葉をくれたその人を、裏切ったのは私だったのに。
感傷に浸ってしまうのは、冬という季節と、ラジオから流れるクリスマスソングのせいだ。
なんて、私以外のもののせいにして、信号が青に変わったことをいいことに、振り切るようにアクセルを踏んだ。
ーーーー
ーー
「よう」
久しぶりに見たような気がするピンクの髪。
「…ご注文は?」
「そう明らかに嫌な顔しないでよ」
口を尖らせて言うのは、ゴット座でトップをはる晴翔だ。
「してませんけど。で、ご注文は?」
「態度悪すぎ」
確かに最後の印象のせいで態度に出てしまっていたかもしれない。
「まぁいいや、いつもの。それから、クリスマスに赤い薔薇、15本取りに来るから」
「いつものと、薔薇…で、薔薇は花束にしてラッピングしてのお渡しでよろしいですか?」
「うん。とっても大事なやつに渡すから、芽李のセンスで1番いいって思うとびっきりのラッピングにして。
それから、別会計で、薔薇の方は領収書切らなくていいから」
「かしこまりました。ご注文以上でよろしいでしょうか」
「うん。よろしく」