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3月9日  【A3】

第23章 萬里香


 「俺、もう中はいる。ソレ、ちゃんとアンタに渡したから。
 じゃあ、おやすみ。芽李」
 「うん、おやすみ、真澄くん。
 これ、ありがとう。グダグダいったけど、本当は1番嬉しかった」
 「雪道、気をつけて」
 「うん」

 真澄くんが、寮に入ってくのを見送って、エンジンをつけた。
 紙袋に入ったお土産は、私の胸を少し熱くした。

 アクセルをゆっくり踏む。

 "行って来ます"は、ほんの少し重く感じた。

 寮の裏、細道を抜けて大通りを進む。

 「あ…」

 赤信号で止まる。
 ふと歩道に目をうつした時、車窓越しに久しぶりに見かけたその人は、街頭に照らされて、ロングコートを羽織り首元にはマフラーをしてすっかりと冬支度になっていた。

 傘をささないから、少し頭には雪を積もらせて。

 引き留めて話すことも、寮に送り届けることもできたのに、薄情な私はそれがどうしてもできなかった。

 向かうが気づいてくれたら、
 目があったら…。

 信号の点滅、目の前のその人は、駆け足で私の前を通り過ぎていった。

 「至さん…」

 何を今更、未練がましく。
 最後に言葉をくれたその人を、裏切ったのは私だったのに。

 感傷に浸ってしまうのは、冬という季節と、ラジオから流れるクリスマスソングのせいだ。
 なんて、私以外のもののせいにして、信号が青に変わったことをいいことに、振り切るようにアクセルを踏んだ。







ーーーー
ーー


 「よう」

 久しぶりに見たような気がするピンクの髪。
 
 「…ご注文は?」
 「そう明らかに嫌な顔しないでよ」

 口を尖らせて言うのは、ゴット座でトップをはる晴翔だ。

 「してませんけど。で、ご注文は?」
 「態度悪すぎ」

 確かに最後の印象のせいで態度に出てしまっていたかもしれない。

 「まぁいいや、いつもの。それから、クリスマスに赤い薔薇、15本取りに来るから」
 「いつものと、薔薇…で、薔薇は花束にしてラッピングしてのお渡しでよろしいですか?」
 「うん。とっても大事なやつに渡すから、芽李のセンスで1番いいって思うとびっきりのラッピングにして。
 それから、別会計で、薔薇の方は領収書切らなくていいから」
 「かしこまりました。ご注文以上でよろしいでしょうか」
 「うん。よろしく」
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