第23章 萬里香
「監督のカレーはあげたくないけど、芽李は多分もう食べられないでしょ。
台本は、左京も監督もみんな、お前の分って取っておいたやつだから、貰っていい」
「でも」
「受け取って。どこにいたって、何をしてたって、アンタがこの劇団の一員ってこと、忘れないで。
抜けるなんて許さない、俺たちを巻き込んだ責任がアンタにはあるんだから」
「巻き込んだ?」
「そういう話にこの間、アイツらとなったから」
ふいっと顔を晒した真澄くんが、なんだか少し耳が赤くなったような気がして、…それもそうか、外では雪が降っている。
「アンタが、このカンパニーに自分は必要ないって思うなら、俺が俺たちが、アンタがここに残るための理由を作ってやる。
ここに戻るための理由を。
だから、だからいつか…いつか、戻って来てくれるよな?」
「っ、」
「…」
「今生の別れみたいだね」
「別れみたいなもんでしょ、芽李は何も言わずに行ったんだから。
相談もなしに、勝手に悩んで勝手に居なくなって、咲也もアンタに怒ってた。
アイツらは今でもアンタのこと話すし、別に気にしなくていいって思っても、寮のどこかにアンタを探してしまう」
「真澄くん…」
「まだ他の奴らと別れの挨拶してないでしょ?いつか、ちゃんとそういうの済ませなよ。
もし、本当にこのカンパニーを抜ける覚悟があるなら」
「怖いこと言うね」
「じゃないと、アンタが嫌って言ったところで地の果てでも追いかけて引き止めて、囲うから」
「え」
「覚悟しろ。俺と監督の結婚式参列させるまでは、カンパニーぬけるの許さないから」
「真澄くんらしいや。ほら、そろそろ中入りな。風邪ひいちゃうよ、看板役者さん」
「そしたら、責任とってアンタが看病しにきて。
あのホットミルクまた飲みたい」
「いづみちゃんじゃなくていいの」
「監督が俺の看病して、風邪ひいたら困る。アンタはお世話係でしょ。
アンタは退団じゃなくて、長期休暇」
「っ、」
「いつでもアンタが帰ってこられるように、みんなが反対しても、俺がその席守っといてやるから。
さよならは聞きたくない、頼むから」
「……じゃあ、なんで言えばいいの?」
「行って来ますでいいんじゃない?」
「…行って来ます。…って、無責任だね」
「行ってらっしゃい、何を今更」