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3月9日  【A3】

第23章 萬里香


 2人が乗り込んだのを確認して、車を発進させた。

 冬だからって、クリスマスソングを流すラジオが安直に感じて、少しだけモヤモヤした。
 2人は携帯をいじり、何も言わなかった。
 だから私も前だけ見て、花を配達するみたいに無言で車をすすめた。

 慣れていたはずの道が、今では少し懐かしく感じる。

 大きな三角屋根を目指す。
 三角くんが気に入って住み着いた、みんなの寮。
 体は正直で、寮が近づくに連れてアクセルを踏む足は力を緩めていく。
 坂道でもなんでもないのに、アクセルは重く感じた。

 「芽李」
 「…」
 「お願いがあるんだけど」

 後ろの席から顔を覗かせる真澄くんと、ルームミラー越しに目があった。

 「なに?」
 「降りなくていいから、俺たち下ろしたら3分だけ待ってて」
 「…やだって言ったら?」
 「お願い」
 「…わかった。3分だけね、過ぎたらすぐ帰るから」
 「それで良い」

 万里くんは何も言わず、やっぱり携帯をいじってた。

 それから少しして、やっと寮についた。
 いつもの倍くらいの時間を要して。

 「芽李さん、ありがとな。送ってくれて」
 「邪魔しない程度に通う。今度監督に花束渡すから、その時は芽李が作って」
 「2人とも、来てくれてありがとう。…でも、もう…なんて言うか、」
 「わかってるって、困るんだろ?」

 コクッとうなづく。
 万里くんの悲しそうな顔、ここ最近ずっと見てる気がする。

 そんな顔、する必要ないのに。

 「芽李俺たち行くけど、さっきの約束、3分待って」

 真澄くんのまっすぐな目が私を捉えたから、うなづくほかなかった。

 「わかった」

 2人が降りて、ちょうど空からは雪が降り始めた。
 ヘッドライトを消して、ハザードをつける。
 そして3分、タイマーをかけた。

 少ししてトントンと窓ガラスを叩く音が聞こえて、案外早かったなと思いながら、視線をうつす。

 窓を開けると、不貞腐れたような顔をした真澄くん。

 「芽李、ごめん。至まだ帰ってきてなかったから」
 「真澄くん、至さん呼んでくるつもりだったの?」
 「…。それより、これ」

 ぐいっと渡された紙袋、少し重みがある。

 「何?」
 「監督のカレーと、冬組の台本」
 「いやいや、貰えないよ」
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