第23章 萬里香
「おばあちゃん、戻りました」
「おかえり、芽李さん」
「は?」
「アンタ、戻ってくるの遅過ぎ。どこまで配達行って来たの?」
「え、なんで?」
配達から戻り、伝票を持って立ち尽くす。
見慣れた制服にエプロンをつけて、水やりをしているヤンキーは兎も角として、なぜ?
「万里くん?」
訳がわからず水やりヤンキーに眉を顰める。
お前言ったな?
やりやがったな?と、そういう意味で、だ。
「真澄がクリスマスプレゼント買いたいんだってさ、監督に」
「それと、アンタの働きぶりを見に来た」
「な、私の働きぶりはいいから、監督と一分一秒長く過ごした方がいいんじゃないの?っていうか、2人がいるのに咲也は?」
「監督は、今日他の劇団の手伝いだから。
俺もついて行きたかったけど、男子禁制って言われたし、咲也は、委員会だから今日はいない」
他に言いたいことはあるか?と言う視線に、言葉を無くしたのは言うまでもない。
正直真澄くんが来るとは思わなかった。
「あら、芽李ちゃん、帰って来てたの?」
「おばぁちゃん」
「勝手にアルバイト決めちゃってごめんなさいね?
好きな人にクリスマスプレゼントを買いたいって素敵な志望動機でしょう?
それにやっぱり男手があると、助かるし。ほら、この仕事案外力仕事なところもあるし、私の腰も本当じゃないし。
助かるわぁ、ありがとうね、万里ちゃん、真澄ちゃん」
言わんとしてることはわかる。
それに私オーナーじゃないし、でもすごく気まずい。
万里くんはともかく、真澄くんは気まずい。
仕事に私情持ち込むわけにはいかないけど。
「すみません、2人のこと。こちらこそ、ありがとうございます。
2人とも、遊びじゃないんだからね?」
「分かってるっつーの、社会勉強」
「何事も芝居の糧になるんだよって、紬も言ってたし」
仕方ないと、呑み込んで作業を進める。
確かに、最近配達も順調で、正直お店の負担も大変だろうと思っていたところに、2人がきてくれて助かったのは言うまでもないけど。
「夜ご飯どうする?今日はおばあちゃん特性のカレーよ」
微妙に眉を顰めた万里くんと、何かを意気込む真澄くんを見ながら、今日も今日とて賑やかな食事になりそうだと思ったのはここだけの秘密だ。