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3月9日  【A3】

第23章 萬里香


 「ばぁちゃん、野菜切った」
 「わぁ、真澄ちゃん上手ね」

 キッチンで聞こえる声に、先ほどまで立っていた私も待ってていいと促され、テーブルについた。
 万里くんは慣れたように、テレビのチャンネルをいじっている。

 「そういやさぁ」

 こっちを見てないと思ったのに、急に話しかけられてビクつく。

 「な、なに」
 「警戒すんなよ」
 「するでしょ、万里くん。きみさ、突拍子もないことここ2日くらいしてるの気付いてる?」
 「その前に、芽李さんがやったろ?俺弟ポジらしいし、姉さんの背中見て育つんだよ。
 分かったら反省しろ」
 「すみませんでした…って、あれ?なんかおかしくない?」
 「なんもおかしくない」
 「んー?」
 「ところで、あの肉じゃがなんだけどさ」

 万里くんと目が合う。
 徐に前髪を結んで、何かと思えばふっと雰囲気を作った。

 「普通に、俺が独り占めしたい味だった」

 そう言うと、結んだ前髪を解いてくしゃくしゃと整え直した万里くん。

 「って言ってた」
 「え?そのために前髪結んだの?」
 「だって、あんま声真似似てなかったろ?」
 「いや、似てたけど。
 おおよそ誰かわかったけど、前髪あげた印象の方が強くて内容入ってこないんだけど」
 「愛されてんな」
 「話通じないな?」
 「なぁ、観念しろよ」
 「何を」
 「独り占めしたいって、プロポーズだろーが」
 「万里くんってさ」
 「なんだよ」

 必死で繋ぎ止めようとしてくるのが伝わって、可愛くて思わず笑ってしまう。

 「ふっ、」
 「なんだよ」
 「至さんのことかなり好きだよね?」
 「それは芽李さんだろ?」
 「私が好きなのは、カンパニーのみんなと、咲は断トツ」
 「俺は?」
 「5番目」
 「…」
 「嘘嘘、みんな1番好き。大好き、だから、ごめんね」
 「ったく」

くしゃくしゃと、また髪をいじる万里くんを横目に、すっかりおばあちゃんに懐いた真澄くんを見ていた。

 「今日も失敗か」
 「ふふ、降参していいよ?毎日こられたら骨が折れる」
 「折ってやるよ」
 「我慢比べだね」
 「最後に俺が勝つから。つーか、いー匂い。腹減った」

 おばあちゃんがよそってくれた、まっ黄色いご飯はサフランで染めたもの。真っ白いさらに乗せられたカレー、持って来たのは真澄君。
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