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3月9日  【A3】

第22章 大白


 「寮出る時も、なんか一言あってよかったんじゃねぇの?」
 「それは、ごめん」
 「謝って欲しいわけじゃねぇ」

 コーヒーカップを傾ける仕草が様になってる、なんて今のタイミングで言うのは、流石に空気を読めないやつになりそうで言わなかった。

 「んー、…んー」
 「うなってたんじゃわかんねぇよ。それにアンタ、SNS消したろ?
 グループアカウントから名前消えてて、他の連絡先もしらねぇし、職場行っても配達とか言われるし」
 「あー、それはうん」
 「なんで?」
 「…白状するとですね。…未練に、なりそうだったので」
 「未練?」
 「至さんに、好きって言ってもらえたんだ」
 「へぇ、良かったじゃん」
 「良くないよ。言ったじゃん結婚するって」

 万里くんがケーキに手をつける。

 「破棄すれば?」
 「そんなのできないよ」
 「至さんと逃げちまえば?」
 「それこそ馬鹿言わないでよ、至さんの仕事は?春組は?簡単に出来るわけないじゃん」
 「簡単にできたら、至さんがいいってことだろ?」
 「…」

 万里くんに言われて、腑に落ちて。

 「至さんって、さ、ゲームオタクだし、オフは干物だし、部屋汚いし、それから、えっと、…ほら、えっと」

 だけど腑に落ちちゃ、ダメなんだよ。

 「まぁとにかくダメンズじゃん」
 「…」
 「で、彼は…千景さんは、」

 万里くんの目が、私の中まではっきりと見透かすような目で、息が詰まる。

 「眼鏡かけててさ、」
 「至さんだって、たまに眼鏡かけてんじゃん」
 「すらっとしててさ、すまーとでさ、」
 「至さんだって、スタイル悪くねぇじゃん」
 「スーパーマンみたいなんだよ」
 「至さんだってそうだろ?芽李さんのこと見つけるの誰よりも上手いじゃん。
 アンタが酔った時も、低体温症のときも、連れて帰ってきたの至さんだぜ?
 ピンチに駆け付けてんじゃん、何が不満なの?」
 「…」
 「それに、アンタが泣く時だって、至さんのとこ選んでんじゃん」
 「そんな事ない」
 「頑固。それに言ってただろ?好きな人と婚約者がいるって。
 好きな人に告白されたんなら、片想いじゃねぇなら、いいじゃん。そっち選んでも。
 事情はわからなくもねぇよ?でもさ、左京さんに相談したらなんとかしてくれるかもしんねぇじゃん。
 やりようはあるだろ?」
 
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