第22章 大白
「寮出る時も、なんか一言あってよかったんじゃねぇの?」
「それは、ごめん」
「謝って欲しいわけじゃねぇ」
コーヒーカップを傾ける仕草が様になってる、なんて今のタイミングで言うのは、流石に空気を読めないやつになりそうで言わなかった。
「んー、…んー」
「うなってたんじゃわかんねぇよ。それにアンタ、SNS消したろ?
グループアカウントから名前消えてて、他の連絡先もしらねぇし、職場行っても配達とか言われるし」
「あー、それはうん」
「なんで?」
「…白状するとですね。…未練に、なりそうだったので」
「未練?」
「至さんに、好きって言ってもらえたんだ」
「へぇ、良かったじゃん」
「良くないよ。言ったじゃん結婚するって」
万里くんがケーキに手をつける。
「破棄すれば?」
「そんなのできないよ」
「至さんと逃げちまえば?」
「それこそ馬鹿言わないでよ、至さんの仕事は?春組は?簡単に出来るわけないじゃん」
「簡単にできたら、至さんがいいってことだろ?」
「…」
万里くんに言われて、腑に落ちて。
「至さんって、さ、ゲームオタクだし、オフは干物だし、部屋汚いし、それから、えっと、…ほら、えっと」
だけど腑に落ちちゃ、ダメなんだよ。
「まぁとにかくダメンズじゃん」
「…」
「で、彼は…千景さんは、」
万里くんの目が、私の中まではっきりと見透かすような目で、息が詰まる。
「眼鏡かけててさ、」
「至さんだって、たまに眼鏡かけてんじゃん」
「すらっとしててさ、すまーとでさ、」
「至さんだって、スタイル悪くねぇじゃん」
「スーパーマンみたいなんだよ」
「至さんだってそうだろ?芽李さんのこと見つけるの誰よりも上手いじゃん。
アンタが酔った時も、低体温症のときも、連れて帰ってきたの至さんだぜ?
ピンチに駆け付けてんじゃん、何が不満なの?」
「…」
「それに、アンタが泣く時だって、至さんのとこ選んでんじゃん」
「そんな事ない」
「頑固。それに言ってただろ?好きな人と婚約者がいるって。
好きな人に告白されたんなら、片想いじゃねぇなら、いいじゃん。そっち選んでも。
事情はわからなくもねぇよ?でもさ、左京さんに相談したらなんとかしてくれるかもしんねぇじゃん。
やりようはあるだろ?」