第22章 大白
「みーっけ」
なんだか聞き慣れた声とともに、ピタッと少し熱めの缶が頬っぺたに当てられた。
驚いて振り返ると、万里くんがいた。
「いや、なんで?
学校は?」
「サボった」
「ダメでしょ」
「嘘。今日は休校日」
「そうなんだ。じゃあ、あの、おやすみ楽しんでね。では」
退路はないと、階段を駆け降りようとするも、流石の瞬発力で割と力強く腕を引かれた。
「なんで逃げんだよ、後ろめてぇことでもあんの?」
「な、ちが!急用で、」
「このまま俺に担がれて寮に行くのと、これから俺に付き合うのどっちが良い?」
「どっちもやだ」
「なんでだよ」
「話す事もないですし」
「俺はある」
片手で器用にスマホをいじると、その画面をぐいっと見せつけてくる。
「て、天使?」
「話、ねぇの?」
「うぐっ、」
「ちなみに、紬さんだけじゃなくて咲也のもあんだけど」
「咲が羽つけたら誰も勝てないじゃん」
「そうだなって、ちげぇよ。
で、どうすんだよ?面貸してくれんのか?」
「少しだけ、なら」
そう来なくっちゃと、連れて来られたのは万里くん行きつけのカフェ。
個室の部屋もあるみたいで、そこに通された。
「何頼む?」
「お任せで」
手慣れたように注文をする万里くんは、本当に高校生なのか?
「良い店だろ?」
「高そう」
「そうでもねぇよ」
窓辺にアイビーが飾られている。
確かに良い雰囲気だ。
「で?」
「で、とは?」
「何かいう事あるんじゃねぇの?」
「咲の天使の画像ぜひ送っていただけませんか?」
「違うだろ、馬鹿」
「万里君か」
「なんだよ?」
「寮出た日、咲に馬鹿っていわれたんだよね。万里くんの影響か」
「確かに芽李さん馬鹿だもんな」
「ぐうの音も出ないんだけど」
「俺らになんも言わないで寮でるんだもん、馬鹿のついでに薄情だよな」
「ついでって、」
「至さんも、ゲームに身がはいってねぇし。お陰で楽にランク一位とれたけど」
お待たせいたしましたと持って来られたコーヒーは静かに湯気を立て、一緒に頼んだケーキセットは日替わりで、チーズケーキの上にミントとみかんのジャムが載っていた。
「…」
「なんで何も言わねぇの」
「…」
「俺、少なからず事情知ってるわけじゃん」